地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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市民講座「方言のチカラ」


日時:2014年1月11日(土)午後1時30分〜3時30分
会場:中目黒青少年プラザ 第二レクリエーションホール
共催:めぐろボランティア・区民活動センター

講師:篠崎晃一先生(東京女子大学現代教養学部教授・方言学/社会言語学)
朗読:高橋正彦氏(演劇集団たつのおとしご会)



(PDF,138KB)

篠崎晃一先生 高橋正彦氏
篠崎晃一先生(左) / 高橋正彦氏(右)


講演要旨

▼「出身地鑑定方言チャート」の意図~方言への関心の高まり
 長年全国の方言の調査をしていますが、アンケートの形ではなかなか返事が集まらないので、回答者にとって面白い形式はないかということから、ゼミの学生たちと考え出したのが「出身地鑑定方言チャート」です。企画会社がネットで公開すると思いがけないほどの反響があり、そのデータの分析や、新しいチャートを作ろうということにもなって、目下忙殺されています。公開の意図はデータ収集への協力者に成果を還元することだったのですが。
 また、NHKの朝の連続ドラマ「あまちゃん」のセリフで方言が多用され、「じぇ じぇ じぇ」などは流行語大賞にも選ばれました。実は「じぇ」と並んで岩手放送に「じゃ じゃ じゃTV」 があるように「じゃ」という地域もあります。「ジャ」「ジャイ」「ジェア」「ジェ」と地域によって変化しています。実は「じゃ」は室町時代末期から文献に現れており、京都から地方へ広がっていったと考えられます。

▼方言周圏論
 中央のことばがどのように広がっていったのかについて、柳田邦男は「蝸牛考」で方言周圏論を唱えました。都市の「ことばA」が周辺に広がる→都市でAに代わる「ことばB」が生まれる→Aはさらに周辺に広がる→都市でBに代わるCが生まれる→Bが周辺に広がり、Aはさらにその周辺に押されていく。このようにして、周辺の地域に古い形が残っていくのです。柳田邦男は蝸牛の言い方を使って、このことを検証しました。「目覚める」の古い形「おどろく」(日本書紀)や「交える」の古い形「かてる」(日本書紀)が京都から見て周辺にあたる地域に残っています。北海道に「かでる2.7―道民活動センター」というビルがあります。この「かでる」は道民が交流するという意味、「かてる」が今でも生きているわけです。このような古語が残っている例として、関西の「この味噌汁はみずくさい」(味が薄い)、秋田の「宿題でかした」(完成させた)、近畿、中国、四国の「テレビめげた」(壊れた)などがあります。

方言周圏論

かでる


▼気づかない方言
 各地には日常生活の中で共通語だと思い込んで使っている方言がたくさんあります。共通語と同形のことばで意味が異なるものなどです。例として
●「このケーキいきなりおいしい」(宮城)→「このケーキとてもおいしい」
●「さぼってねーで、しみじみやれ」(茨城)→「さぼってないで、しっかりやれ」
●「背中かじって」(山梨)→「背中かいて」
●「おなかが太った」(広島、山口)→「おなかが満腹になった」
●「あそこの店、しんけん安い」(大分)→「あそこの店、とても安い」
●「このパソコン、なおして」(西日本)→「このパソコン、仕舞って」
 また東西で同じ意味を指すことばの形がちがうものもあります。例えばー
         
 西
濃い 濃ゆい
~年生 ~回生
画鋲 オシピン
使いかけ 使いさし
デパート 百貨店
床や 散髪屋
美容院 パーマ屋
消しゴム 字消し
黒板消し 黒板拭き
ワイシャツ カッターシャツ
肉まん 豚まん(西では肉=牛肉ですから)
チャーハン 焼きめし
串揚げ 串カツ(串に刺してあげたものはすべて串カツ)
炊き込みご飯 かやくご飯

▼生活の中の方言
 職業によってもことばの形が変わることがあります。「南風」の言い方のうち、「マゼ」「マジェ」の分布をみると、漁業従事者の多い地域であることが分かります。また、フクロウの鳴き方のうち、「ノリツケホーセ」と言う地域は本州の日本海側に分布しています。この地域は一年の内晴れの日が半分以下なのです。フクロウが鳴くと翌日は晴れるという俗信があって、そのため、明日は晴れだから洗濯物にのりをつけて干せ、と鳴いて教えてくれている、というわけなのです。

南風の分布と漁業従事者の相関図


▼街で見かける方言
 その地域で普通に使われている方言をご紹介します。山梨県身延町の国道にあった看板ですが「お帰りは気付けて とばしちょっし」とあります。パッと見ではスピードをあげてとばせ、みたいに受け取られかねないですが、これは「とばさないで」という意味ですね。交通標識では京都の「幅員狭小 離合困難」があります。離合って何のことか、この地域以外の人にはわかりませんが、すれ違いのことです。また、大阪では駐車場のことを「モータープール」、京都では「ガレージ」、名古屋では一台分の駐車スペースを「車室」と言います。駐車場の電動式扉には「指づめご注意」とあり、京都の国際ホテルのドアにも「ゆびづめ」とありました。これだけでは分かりにくいのでコラムに書いたことがあるのですが、次に行ったときには下に手書きで「注意」が入っていました。「あとぜき」はお分かりですか?熊本で出会うことばです。「解放厳禁 あとぜき」扉を閉めてくれ、ということですね。

お帰りは気付けて とばしちょっし 幅員狭小 離合困難

 食べ物では「煮かつ丼」はどうでしょう。東京ではふつう「かつ丼」というものです。でも山梨などでは「かつ丼」はとんかつとキャベツがご飯に乗って、ソースがかかっているもの、ふつうのかつ丼のことは「煮かつ丼」といいます。北海道のザンギバーガー、スパカツバーガーもその地域独自の言い方です。
 西日本で見るステッカーの「ゴミをほかさないで」は「ゴミを捨てないで」、また、北海道ではごみ集積所のことをごみステーションと言います。札幌から来た学生が東京ではごみステーションと言わない!と驚いていました。その地域では方言だと思っていない言い方はほかにもたくさんあります。群馬の「水くれ」は「水やり」、それからその地域で一般的なメーカーの商品名がそのまま普通名詞になっているものもあります。例えば北海道の「ママさんダンプ」はプラスチック製の雪かきショベル、信州の「スチロパール」は「発泡スチロール」のこと。救急ばんそうこうの名称も地域に流通しているメーカーの商品名が使われていて、その分布を見ると、北海道は「サビオ」、東北と中国・四国の半分は「カットバン」、関東と近畿・中部・四国の半分は「バンドエイド」、九州は「リバテープ」が優勢です。
 黒板拭きを「ラーフル」と呼ぶ地域もありますが、これは文具業界で使われている業界用語です。小学校などで使う模造紙も地方によって、さまざまな呼び方があります。富山ではガンピ、新潟ではタイヨーシ、山形ではオーバンシ、岐阜・愛知ではビーシ、愛媛・香川・沖縄ではトリノコヨーシ、熊本ではヒロヨーシ。その地方ではこれが全国共通語だと思われています。

▼感動詞や擬態語、号令などにも地域差がある
 感動詞では、たとえば、沖縄の人は机の角に足の小指をぶつけたとき、「あがっ!」と叫びます。これは商品名にも使われていて「あがっラー油」、つまり痛いほど辛い、というイメージですね。
 擬態語では、たとえばゆっくり歩く様子を、徳島県人は「しわしわ(歩く)」、岡山県人は「ぼとぼと」、富山・石川県人は「やわやわ」と言います。愛知県は擬態語の方言が豊富にあります。「鉛筆を<ときんときん>に尖らせる」「信号が<ぱかぱか>する」「<しゃびしゃび>のカレー」など。
 号令にも地域差があります。共通語では生徒が立ち上がって礼をするとき「起立!礼!」といいますが、群馬県人は「起立!注目!礼!」と言います。学校で体育の時間に「起立!」の号令がかかると、福岡県人は「やー」と叫びながら立ちます。みんなで一斉に何かをするとき、福岡県人は「さん、のーが、はい」と言います。福岡県人は体育の行進中に「全体とまれ!」と号令がかかると「いち、に、さん、し、ご」と五まで数えて止まります。

▼言語行動にも地域差がある
 挨拶などの言語行動にも地域差が見られます。店を出るときの挨拶として、アリガトー類を言うのは主に西日本、ドーモ類を言うのは主に東北地方ですね。また、電話の際の挨拶ですが、新潟県人は呼び出されて電話口に出た時、ます「ごめんください」と言います。
 関西人と首都圏の人との比較ですが、貸した100円を返してほしいとき、近畿圏の若年層の26.7%は「こないだの100円返して」とはっきり言い、それに対して首都圏の若者は10.6%しかはっきり言わずに返してくれるまで待つのですね。一方、関西人は何かを借りるとき「わるいけど、ペン貸して」のようにクッション言葉を添える場合が多いのです。また関西人は飲食店で料理をほめるとき、「ええ出汁でてますやん」のように具体的にほめます。試供品を渡された時も、首都圏の人は黙ってもらうケースが多く、関西人は「ありがとう」とか「どうも」と言う場合が多いです。
 また、一度誘って「今日は用事があるからムリ、また誘ってね」と言われた場合、「断られた」と思うひとは首都圏では45.5%、近畿圏は32.6%、「また誘う」のは首都圏で54.5%、近畿圏で67.4%と違いが見られます。

▼方言研究の面白さ・方言のチカラ
 個人差だと思い込んでいた現象が、実は方言的な地域差に裏打ちされたものであったという素朴な発見があります。そういう未知なる地域差を発見する楽しみがあります。そしてそれはことばを表面的な現象としてではなく、社会や文化の中でより深く理解しようとすることにつながるのです。
 方言の持つ温かみや雰囲気を活用して、方言で商品名を付ける動きも広がっています。例えば山口県防府市では、「ありがたいです」という意味の方言「幸せます」を商標登録し、地域ブランドとして商品開発などに活用しています。
 その方言でなければ表現できない思いというものもあります。それを含めて、方言は、いまやコンプレックスではなく、ブランドだという時代になっていると感じています。

会場のようす

以上
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