地球ことば村
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ことば村・ことばのサロン

2009・3月のことばのサロン
▼ことばのサロン

 

シリーズ「よみがえる ことばたち」1
「先住民族言語の再活性化運動~ハワイ語は生き残れるか~」


● 2009年3月21日(土)午後2時-4時30分
● 慶應義塾大学三田キャンパス大学院棟334教室
● 話題提供:松原好次先生(電気通信大学 総合文化講座 教授)
● 専門は社会言語学、特に、先住民族の言語(ハワイ語、ウェールズ語、マオリ語など)や移民の言語の衰退・再活性化について研究。


講演要旨

松原好次先生ハワイ語再活性化運動の背景

 ハワイ語衰退の原因は主に次の3つである。

  1. 先住民族人口の激減=米本土からの移住者によるパイナップル農園の拡大によって経済的基盤である土地を失い、その結果人口も激減した。
  2. ハワイ王朝の言語政策=近代化への焦燥に駆られた支配層が英語化を進めた。
  3. 米国による王朝転覆・併合=1893年のハワイ王朝転覆、1898年の米国による併合の結果、英語が公用語とされ、学校教育においても英語が唯一の教育言語と指定されたため、ハワイ語が駆逐されるようになった。1980年代、ハワイ先住民のうち、ハワイ語が話せるのは2000人の老人と50人の子どもだけだった。

 そのような状況はアメリカ本土で公民権運動やヴェトナム反戦運動が起こった60年代後半から70年代前半にかけて変化し始める。その頃ハワイでも伝統的なハワイの文化、とりわけ音楽や舞踊が見直され、ハワイアン・ルネッサンスと呼ばれるような文化潮流となっていく。その流れの中で、一足先に言語の再活性化に取り組んでいたニュージーランドのマオリの言語教育からも影響を受けて、ハワイ語を再活性化しようとする草の根運動が起こった。1984年にプーナナ・レオ(ハワイ語で保育をする保育園)、1987年にクラ・カイアプニ(ハワイ語による小学校:後に中学校・高校へ発展)が設立され、児童は家庭でもハワイ語を使用することを求められる。現在ではハワイ島ヒロにあるハワイ大学にハワイ語学部も設置されていて、ハワイ語を母語とする世代が少数ながら育ちつつある。

ハワイ語イマージョン教育が成功した要因

 このように、幼児期からハワイ語にどっぷりと漬ける(イマージョン)教育が成功した要因は主に次の5点である。

  1. 先住民の権利を求める闘いの一環:ことばはすぐれて民族のアイデンティティーをあらわすものである。ハワイ語イマージョン教育校に通わせる親の多くは、みずからは英語が母語であるのに、決意を持って子どもをハワイ語話者に育てようとしている。
  2. 親・教師主導による下からの運動:イマージョンプログラムが始まった当初は教科書も無く、親や教師は英語の教科書に糊付けでハワイ語を挿入して使用した。当時を知る人は、ここまで発展するとは思わなかったと言う。
  3. 大学の協力:前述のように、ハワイ大学などがハワイ語再活性化に協力をしている。
  4. 就学前から大学院までの一貫性:基本的に英語が主流言語であるハワイ諸島で、ハワイ語を母語とするためには長期の一貫性が必要である。
  5. 英語の運用能力があること:皮肉なことだが、英語という大言語を自由に使える能力があったために、ハワイ語の再活性化運動について世界にアピールすることができた。アイヌの若者が、これからはアイヌが英語を学ぶ必要がある、と述懐していたことを思い出す。

会場のようす

ハワイ語再活性化運動に対する批判

 白人主体の体制側には、ハワイ語の再活性化がハワイ州分断の可能性を持つとする人々もいて、新聞などで批判を繰り返している。また、アジア系などのほかのエスニックグループからは、多大な公的資金をハワイ先住民の教育にだけ費やすのはおかしいという批判もある。これに対してハワイ民族は、我々は「先住民」で、もともとハワイ諸島は自分たちの土地だから当然のことだと反論している。一方、先住民の内部でも、物理、化学などハワイ語の語彙では間に合わない教科は、子どもたちの母語である英語で教えるべきであると考え、クラ・カイアプニから離脱し、「チャータースクール」を設立する動きも出てきている。

少数言語の保持・復活は可能か-社会を変える楔(くさび)

 これはきわめてむずかしいと言わざるを得ない。まず、ある言語が失われることがどんな意味を持つのかについて、個人や社会の認識が変わらないとならない。その意味で、マスメディアの役割は非常に大きいと思う。

 ハワイの学校教育の大多数は英語で行われており、プーナナ・レオ、クラ・カイアプニで育つ子どもはごく少数である。しかし、彼らは社会を変えていく楔であると思う。最近ハワイのTVで、たった1分間ではあるが、ハワイ語のニュースが流れるようになった。これも楔のひとつだと思う。こういう楔がひとつ、またひとつ、と打ち込まれることによって、楔が梃子(てこ)になるまで見守りたいと思う。

以上




 ことばが失われること、そしてそれを復興することついて、シリーズで開くサロンの一回目です。

 プーナナ・レオの保育風景などの映像を見て、ハワイ語の響きを聞き、人々の表情から、喜びと誇らしさを感じました。一方、子どもを通わせている家庭の情景では、英語話者の父親・母親がハワイ語で一生懸命子どもに接しているのに、子どもたちはTVの英語幼児番組に気をとられていたり・・・。大人世代の毎日の大変な努力の上に成り立っている再活性化なのだなぁと思います。これほどの思いをしてでも、祖先のことばを活かしたいと思う、日本人が同じような立場に立ったらやはりそう思うでしょうか。きっとそうだと思いたいです。

 ハワイ語の語彙では、物理などを教えるのが難しく、英語の学校の児童と学力差ができてしまう、という点で「ハワイ、マオリ、マレーシアの人達からも、日本人は日本語で何でも教育を受けられて、いいなぁ、と言われました」とのこと。漢字、仮名、カナをもつ日本語の話題、その他たくさんの質問が出てあっという間の2時間半、私たちにも馴染み深いハワイの、別の顔を生き生きと見せていただいたサロンでした。

 これからもことば村ではことばについて皆さんと考えたいと思います。ぜひご参加ください。お待ちしています。

(事務局)