地球ことば村
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ことば村・ことばのサロン

2009・ 4月のことばのサロン
▼ ことばのサロン

 

シリーズ「よみがえる ことばたち」2
「ケルト諸語の再活性化の現状について」


● 2009年4月18日(土)午後2時-4時30分
● 慶應義塾大学三田キャンパス西校舎514教室
● 話題提供:原聖先生(女子美術大学芸術学部教授)


講演要旨

原聖先生はじめに:ケルト諸語とは

 イギリス、スコットランドのアルバ語、ウェールズのカムリー語、コーンウォールのケルノウ語、アイルランドのエール語、マン島のマン語、フランスブル ター ニュのブレイス語などを総称してケルト諸語という。近年、欧州全体で少数言語再活性化の動きがみられるが、これらケルト諸語も数十年に渡る再活性化の運動 が高まりを見せている。

 ユネスコが2月に発表した「危機言語」最新データに、マン島のマン語が消滅したとされたが、実際には言語復活運動の歴史は長く、2000年代にはこの言 語 を教育言語とする小学校も誕生している。ほかのケルト語でも、たとえば、ブレイス語では、1970年代に言語復活運動がはじまり、82年にはブレイス語の TVプログラムも制作され、90年末からは良質な番組が見られるようになっている。

カムリー語活性化の取組み

 一番活発に活性化運動が展開されているのは、カムリー語である。1967年のカムリー語法で言語の法的な権利が定めら れ、 1993年にカムリー言語法制定、さらに1999年ウェールズ自治議会の発足によって言語運用計画が始まった。これは五年の間に役所などの公的機関や 銀行などの公共的機関がカムリー語で対応できる計画をたてさせるものであった。こうした法的な裏づけがカムリー語の活性化を支えている。2007年調査で は話者は全人口の20%だが、小学生の20.3%がカムリー語媒介教育を受け、中等教育の生徒の83.7%がカムリー語を第2言語として学んでいて、カム リー語を話す若者が増えている状況である。

会場のようす

エール語の場合

 1937年に現行アイルランド憲法が制定され、エール語は国語として、なおかつ第一公用語に位置づけられた。しかし英語 中 心の社会でエールの話者は少数にとどまり、形の上で第一公用語であるために逆に対策もたてられずにいた。1982年に欧州各国の少数言語運動団体が欧州少 数言語事務局を設置、1992年に欧州評議会が地域言語・少数言語欧州憲章を採択、ヨーロッパの少数言語の保護・活性化を提唱するなどの動きに、また、人 口40万人の小国マルタの言語が2004年のEU加盟時にEUの公用語に採用される動きにも刺激され、アイルランドにおいても2003年にエール公用語法 が、スコットランドでは2006年にゲール語法が制定されて、エール語・ゲール(アルバ)語の活性化が促進されようとしている。

ケルノウ語とマン語

 イギリス南西部のケルノウ語(コーンウォール語)は18世紀に一度話者が途絶えたが、すぐに復興運動が始まり、同じくケ ルト系言語であるブルターニュのブレイス語から単語を借りるなどの努力が続けられてきた。2000年に地域言語・少数言語欧州憲章をイギリスが批准、 2001年に発効し、アルバ語(スコットランド)、カムリー語、スコッツ語(スコットランド英語)、マン語(マン島)などとともに保護・活性化の対象とな る。ケルノウ語には、3つの異なる書きことばがあり、それぞれが別個に運動をしていたが、2008年に標準書記言語合意が成立し、スタンダード表記ができ るようになった。2008年には100人のケルノウ語話者がおり、50家族の運動家の家庭で日常語として使われているがそれを言語コミュニティーと呼べる 規模かどうかはまだ即断できない。

 マン島のマン語は、1974年に最後の話者が亡くなった。ケルノウ語と同様、地域言語・少数言語欧州憲法の保護・活性化の対象ではあるが、セント・ジョ ン にあるマン語を教育言語として用いる小学校で50名の生徒がマン語で学んでいる程度で、学校外ではマン語を使う状況にはない。

言語法をもたずに活性化 運動が進むブレイス語

 フランスブルターニュ地方の言語ブレイス語はフランス語に圧迫されてきた歴史を持つが、1951年ディソンヌ法で地域語として認められ、1977年には ディワン自主教育学校が設立されブレイス語教育が始まって、1981年にはブレイス語による学士号が認可された。しかし他のケルト系言語、たとえばカム リー語などとは違って、ブレイス語活性化は言語法による法的な裏づけを持たない。自発性に基づく「言語運用計画」(2004年)には2008年までに 584機関が賛同し、フランス語とならぶブルターニュのことばとしての振興が図られるようになっている。ブレイス語によるウェブTV放送、ブレイス語ブッ クフェアなどが行われている。

以上




質疑応答

■このように再活性化を進めていく動機はなにか?
 運動が法制化されている場合は、あらためての動機付けは必要がない。あえていえば、自分たちのことばだから、ということ。運動の盛んなウェールズ(カム リー語)などでは、伝統的な文化の形(しきたり、祭など)をとった生活が続いてきている。生活が存在しない言語の復興は難しい。

■なぜ近年、言語再活性化が加速してきたのか?
 英語一極化に対する反発が大きいと思う。ヨーロッパでは昔からアンチ英語の風潮が強かった。法律的な裏づけができて、運動が安定して進んでいる。それ以 前 の運動家はかなり政治的だったと思う。ケルト諸語についてもっと知りたいかたは私が執筆した「ケルトの水脈」をお読み下さい。
「ケルトの水脈」興亡の世界史07 講談社 2007年  

(文責:事務局)