地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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ことば村・ことばのサロン

2009・9月のことばのサロン
▼ことばのサロン

 

シリーズ「よみがえる ことばたち」5
「パラウン民族の言葉と文化」


● 2009年9月26日(土)午後2時-4時30分
● 慶應義塾大学三田キャンパス514教室
● 話題提供:イン・イン・メイ先生(東京外国語大学大学院)
● ミャンマー出身。ヤンゴン外国語大学卒業後、同大学で日本語教師。1999年来日し、名古屋外国語大学で修士課程終了。同大学国際交流部に勤務後、現在は東京外国語大学のミャンマー語講師を務める。ご自身もパラウン民族のおひとりで、パラウン民族はじめミャンマーの文化の紹介や国際交流に貢献。


講演要旨

パラウン民族とパラウン語

イン・イン・メイ先生  パラウン語は、ミャンマーのシャン州、中国の雲南省、タイの北部などに広がって住むパラウン民族(ミャンマーの135の少数民族のひとつ)の言語です。「パラウン」はミャンマー人による他称で、最も多く住むシャン州北部のナムサン地方では「タアン」ナムカム地方では「ルーマイ」、そのほかの地方では「ダラン」「ルーツィン」などと自称しています。ナムサン地方のパラウン民族は「シュウェ パラウン」(金のパラウン)ナムカム地方のパラウン民族は「ナウェ パラウン」(銀のパラウン)とも呼ばれ、これは前者が金の装飾品を、後者は銀の装飾品を珍重して身につけるところからです。講演者が調査研究しているパラウン語は、出身地であるシャン州チャウメー県ナムサン群パヤジー村で話されている言語で「ナムサン方言」に属するものです。

パラウン語ナムサン方言の言語学的な概要

 パヤージ村のパラウン語は、初頭子音33、子音結合21、母音11、二重母音13、三重母音2、音節末子音10が認められます。鼻音には有声と無声の対立があります。声調は存在しません。(ミャンマー語には声調があります)
 語構造については、一番多く見られるのが単音節語で2音節語、3音節語も多少見られますが、3音節語は借用語か合成語のみです。
 基本的な語順は「主語+動詞+目的語(SVO)」で、修飾語と被修飾語の語順は「被修飾語+修飾語」となります。
 簡単な会話を紹介しましょう。

1)ʔɔ hɔɔm ɓɔɔm
オー ホォーム ポォーム (私はご飯を食べる)
私  食べる  ご飯
2)ʔɔ sən hɔɔm ɓɔɔm
オー サン ホォーム ポォーム (私はご飯を食べたい)
たい 食べる ご飯
3)ʔɔ mɔh kjapan
オー モウー キャーパン (私は日本人です)
私  である 日本人
4)həmɔ mi jɤɤ?
ハモー ミー ヤェッー (どこからきましたか)
どこ あなた (から)くる
5)həmɔ mi lɔh
ハモー ミー ロォー (どこへ行きますか)
どこ あなた
6)mi hɔɔm jɔɔ? ɓɔɔm
ミー ホォーム ヨォー ポォーム (お食事終わりましたか)
あなた 食べる 完了 ご飯
7)mi khjamsa
ミー キャームサー コォー (お元気ですか)
あなた 元気
8)rɔʔ mi
ロオッ ミー (ありがとうございます)
ありがたい あなた
9)ka ɲa mɔh
カ  ニャ   サ  モオー (どういたしまして)
しない なにも (大したことない)
10) ŋɛh
ゲー (美味しいです)

会場の様子

方言と共通語

 パラウン語は山などに隔てられて住むために、地方によって方言差があり、互いに通じないこともあるため、パラウン民族同士でも、シャン州の主要言語であるシャン語を共通語として使うことがあります。今は、ミャンマーの公用語であるミャンマー語もよく使われるようになりました。
 パヤジー村の子供たちは中学まで村で学び、高校へは片道2時間かけてナムサンの町の学校まで通います。学校ではミャンマー語で授業があり、子供たちは家ではパラウン語、学校ではミャンマー語の2言語を使って暮らしています。

パラウン民族の暮らしと文化

 パラウン民族の主要な産業はお茶です。パラウン民族=お茶というイメージがあり、醗酵茶、乾燥茶、紅茶の3種類のお茶を製造し、国内消費のみならず、輸出もされて、中でもナムサン地方はそのお茶の品質の高さで知られています。人々は夜明け前に村を出て、山の茶畑に行き、一日働いて村にもどります。村を出るときに太陽が昇ってしまうと、怠け者といわれるのです。
 米、野菜などほかの農作物はほとんど自家用のためで、また、ほとんどが仏教徒のパラウン民族は食べるための猟や牧畜などはしません。鶏肉や豚肉は食べますが、牛肉、水牛肉はあまり食べません。野菜や果物が主の食事ですが、日本の食材と良く似ていて、乾燥した納豆、こんにゃくなどもあり、来日したばかりのときも、日本の食事には全く違和感がありませんでした。パラウン民族特有の食品として、竹の子を醗酵させたミチンがあります。これを煮付けたものは独特の風味で、ふるさとの味といえます。

 パラウン民族の村は一つの家に2家族、3家族がいっしょに住み、それぞれがひとつずつのいろりで区切られています。家族の中では年長者あるいは父親が権力を持ち、座る位置などが決められ、ほかの家族メンバーはそれを犯してはならないことになっています。
 女性は、結婚後は夫の家に住み、舅・姑は自分の娘として扱います。夫が死んでも実家に帰ることはなく、もし再婚することになれば、夫の忘れ形見の子どもは前夫の家に残していくことになっています。

 男性は、7歳~14歳ごろに必ず得度することになっています。得度を受けないと一人前と認められません。得度を受ける少年たちの家族は三日間の祭りでご馳走をふるまい、少年たちは豪華な服を着て行列し、僧衣に着替えて得度式に臨みます。貧乏な家の子どもや、身寄りのない子どもには、必要なものを檀家衆がいつも恵んでくれて、得度を受けさせてくれます。

 未婚の男性は数人連れ立って、未婚の女性の家に行き、歌を歌ったりして言い寄るのが常です。親しくなると、若い二人はいろりのそばで夜遅くまで謎かけをしたりして話をします。恋人になってほしい女性には銀や金の装飾品、帯や帽子などを仲介者を通してプレゼントします。プレゼントをたくさんのひとからもらう女性もいますが、彼女が結婚相手を決めたら、他のひとから貰った品々は返さなくてはなりません。

 ナムサン地方は8月の平均気温が15~16℃という高地性の気候です。服装としては、男性は頭には桃色のターバンを巻き、紺色の上着とズボンの上に桃色の帯をして、銀刀をかけます。ナムサン地方の女性は赤系の巻きスカートの上に、ビロードや絹、木綿などのインジー(ブラウス)を着て、金のアクセサリーを好んでつけます。ナムカン、カロー地方の既婚女性は黒っぽい色や緑の服に腰には籐の輪をはめ、色とりどりの木綿の帽子をかぶっています。未婚女性は派手な服に銀の装飾品をつけます。

民族衣装 民族衣装

 パヤジー村には電気が引かれていません。ほとんどの家にはラジオがありますが、TVを持っているのは2軒程度です。お茶の流通業を営むひともいますが、ほとんどはお茶の生産で収入を得る生活を送っています。今日はそんなパラウン民族の文化の一端をご紹介しました。

以上

(文責:事務局)