地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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ことば村・言語学ゼミナール

言語学ゼミナール(3)
▼言語学ゼミナール

 


● 2008年10月11日(土)12時30分-13時30分
● 慶應義塾大学三田キャンパス西校舎523-A教室
● 座長:金子亨(千葉大学名誉教授・言語学)



 前回はチョムスキーの生成generationという理念が一世紀前のフンボルトのエネルゲイア(Energeia, Spracherzeugung)の理念を継承したものであることについて話しました。この理念の継承には、思想の発展が随伴します。チョムスキーの博士論文『言語理論の論理構造』(1955/1975)では言語の文法が派生規則の系であることを示し、その規則が正当に生成する文を適確well-formedな文と評価するという理論が展開されました。

 この適確な文によって表示されるものは、ひとつのまとまった思考内容です。そしてこの思考内容がふつう「文の意味」と言われるものに当たりますが、この文の意味の中核をなすのは言語知識linguistic knowledgeです。言語知識とは、さまざまな言語の個別の文法に入力されてその言語の文をつくるための概念的な入力情報であると考えておきましょう。では、この言語知識には、一般に語用論的な情報は含まれないのではないでしょうか。例えば、山登りの道すがらの挨拶のかけ声やその意味などは言語知識の延長ではあっても、ひとます別の情報と考えておきましょう。それはちょうどある音がどの方向から来たのか、それは威嚇的であるか友好的であるかというような音声にともなう情報が前(=非)言語的であるのと比べてもいいのではないでしょうか。ヒトの言語知識はこのような一語用論的情報を少なくとも理論的には分離して分析できるものと見なせるのかも知れません。

 [ここで、大切な質問がありました。では、ヒトの言語をどう定義するのかという質問です。この質問への暫定的な答えは次のようなものでしょう。ヒトの言語は二重分節double articulation<André Martinetという操作に依存して出来ている。つまり、それは意味を持たない最小分割単位としての音素から構成され、その音声の合則的な連結が意味を持つ最小の単位である形態素をつくる。この二重の音声的単位の集積がヒトの思考を表示するための記号の担い手(=signifiants、つまり言語知識の音的なタグ)を作ると。]

 文は基本的に言語知識の表現ですから、文の意味の記述とは、言語知識の記述です。この記述にはさまざまな方法が可能です。そのうちの主なものを並べてみましょう。
a)一階述語論理を用いて
 例:鯨は哺乳類だ(全てのxについて、xが鯨であれば、xは哺乳類だ:∀x 鯨(x)→ 哺乳類(x))。
b)機械言語では
 例:Prolog/KR(中島秀之): チューリングは人間です:(assert(human, Turing))
c)生成意味論では(<J.D. McCawley 1968/69)
 例:x kill y = x do(cause(become(not(y alive))))
  (xがyを殺すというのは、yが生きていなくなってしまうようにxが行動すること)
d)PSG(Phrase Structure Grammar)
 例:S → NP + VP
 その変種  例:GPSG, etc.

 他にもまだいくつかの記述方法がありますが、ここではこの4つを問題にしてみましょう。この4つの方法はどれも言語知識の記述方法としては同じ効力をもつようです。つまり4つとも記述的に等価であると言ってよいでしょう。ですからどれを選ぶかはどれが当面の目的にとって読み易いかという基準に従えばいいように見られます。また場合によってはどの記述法に従うと機械が読めるかという選択方法もあります。これらの記述はどれも次の図の思考システムと文法規則系とのインターフェースにある情報です。次にこの知識情報が思考システムに属するのか、それとも文法規則系のなかのLF(Logical Form)に属するのかを考えてみましょう。

 次回はこの問題から考えていきましょう。

(金子 亨)