地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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トゥトゥランニ

南太平洋のヴァヌアツ共和国は、人口が20万人ほどの小さな国家ですが、 国内で100を超える言語が話されています。これらは方言ではなく、言ってみ れば英語とドイツ語が違うように違う言語なのです。その中のひとつラガ語は、 ヴァヌアツ北部にあるペンテコステ島(ラガ島)北部で話されている言語で、 約3000の人びとが日常的に使用しています。初めてこの地域に入った時、私を 見て子どもたちが口々に叫んだことばが、“トゥラントゥニ”でした。

この“トゥラントゥニ”は主として「白人」の意味で用いられますが、広くは 「異邦人」をも意味することばです。「トゥ」というのは、「そこに居る」 「立っている」という意味で、「ランニ」は「朝」という意味です。つまり、 「朝までずっと立ってそこに居る」というのがこのことばの正しい意味なので す。なぜそれが、「異邦人」に用いられるようになったのか? この疑問に答 えてくれる逸話をご紹介しましょう。

白人が初めてこの地方にやってきた時ことです。ある日ラガ島の人びと が沖を見ると、それまで見たこともないような大きな船が停泊していました。 そこに、人間のようなものが立ってこちらを見ていたのですが、次の日の朝、 沖合いを見るとまだ立ったままこちらを見ていたというのです。そこから、 「朝までずっと立ってそこに居る」という意味の「トゥトゥランニ」というこ とばが生まれたのです。

このことばには「信じられない」というニュアンスも含まれています。 つまり、単に「よそ者」を指すためのことばではないのです。それには、「タ ウサラ」という別のことばが用いられます。自分たちの地域の外の人びとは 「タウサラ」です。しかし、巨大な乗り物でやってきた白人は、信じられない ことをする存在、人間とも思えないような存在、すなわち、異人として位置づ けられたから、タウサラではなくトゥトゥランニと呼ばれるようになったので す。

《吉岡政徳:文化人類学(2005年掲載)》