地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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九族文化村に流れた東京音頭


台湾台北市から車で2時間半、「九族文化村」に行ってきました。九族文化 村は台湾の10の先住民族(最近新しくサオ族が加わって十族になったらし い)の家や生活の場が作られ、それぞれの民族が踊りなどを見せる遊園地の ようなところ。世界最大の民族テーマパークという触れ込みでした。

桃の花 たくさんの観光客に混じって巨大な山門をくぐり、まずケーブルカーに乗り ます。山の中腹に点々と茅葺屋根の家やトーテムポールが立ち並び、その間 に濃い紅色の桃の花が美しく広がっていました。10の先住民族-アミ・アタヤ ル・パイワン・ブヌン・ルカイ・ブユマ・サイシャット・ツオラ・タオ・サオ のうち、パイワン族の住居から始まって山を下りながらそれぞれの家をたどる ようになっています。

お爺さん 頂上駅近く、高床式の家の中から、パイワンのお爺さんがひょこひょこと出 てきました。貝殻ビーズと刺繍の色鮮やかな衣装をまとい、雉?の羽の付い た帽子をかぶっています。とりあえず、「こんにちは」と声をかけると、 「どこからきた。日本か?」と日本語で聞かれました。「はい。パイワン語 で、こんにちはって、どういうのですか?」「こんにちははないよ」「えー と、ひとに会ったときになんていうんですか?」「ダワダワイ!」「だわだ わい?」(そう聞こえた・・・)お爺さんはちょっと不機嫌で、いそがしそ うにそこいらを片付け始めたので、「ありがとう。さよなら」とお別れしま した。鋭い目つきでしわの深い顔、華やかな衣装がどこか不似合いでした。

そこから少し下がって出合った恰幅のいいアミ族のおじさんは、機嫌の悪かっ たパイワンのお爺さんとは違って、にこやかに「日本からきた?よくきたね」 と。縁取りのある派手な袖なし上着とニッカーボッカーのようなズボンがと てもよく似合っていました。ことばに興味があるんです、というと「アミ族 の中でも場所が違うと通じないくらいことばが違う。そのため分かれてしまっ た村もある」とやはり日本語で説明してくれました。「おはよう」はアミ語 で「マラタッ」、「こんにちは」は「マラホッ」というそうです。(そう聞 こえた・・・)「マラホッ」と繰り返して試すと、にこにこして「そうそ う!」

家々

家の外の柱に色とりどりの糸を結んで、組みひもをしていたタオ族の上品な おばあさん。タオ語の「おはようございます」は「アイエイホー」というん ですよ、とやさしい笑顔でゆっくりと日本語を話しました。なんて優雅なひ びきかしら、と思いました。葦のような植物を、長さをそろえて地面に並べ ていたルカイ族のお兄さん。ひとと会った時には「マデンガイガイソー」 (そう聞こえた・・・・)というそうです。「元気ですか」という意味。 「さよなら」は「アィイー」「マラヌガ」。このふたつがどう違うのかは、 彼が日本語をあまりよくは話せないため分かりませんでした。

出口ちかくの家に寝そべっていたおじさんに、何族ですか、と尋ねてみまし た。「なにー、私は何でもないよー」と答えが返ってきて、少し酔っ払って いるようです。ごめんなさい、と行きかけると、いきなり「踊りおーどるなー ら」と歌いだしました。東京音頭です。「チョイト東京おんどー、ヨイヨイ」 ちょっと恐い顔をして、私たちに歌いかけます。どうしたらいいか分からなく なって、私はお辞儀をしておじさんから離れました。

出合った中年以上の先住民の人たちは程度の差はあれ、みな日本語が話せま す。一方では通じ合う嬉しさ、他方ではどんな気持ちで日本語を話すのか、 が気がかりでした。たった数時間の体験で文化村の先住民の気持ちなどわか るはずは無いけれど、中国語と日本語とそれぞれの母語を話し、「その民族 であること」が仕事という暮らし、それはどんな感じのものなのか・・・。 再び台湾に来ることがあったら、また、あのおじさんたちに会いたいと思っ たことでした。

追記
2005年7月2日付けの毎日新聞朝刊に、「台湾、アジアで初 先住民向けTV局開 局」という記事がありました。「原住民電視」というテレビ局が1日開局、12 の台湾少数民族の伝統文化や言語を継承していくそうです。素敵!と思いま した。社長はパイワン族のルーグーアイさん。自分たちの視点で、自分たちの 文化を発信していけることになって、どんなに嬉しいことでしょう。日本でも、 アイヌや琉球の人達が自身で文化を伝えてくれる局ができたらと思います。 「先住民向け」だけでなく、わたしたちみんなのために。

(会員Y.O.)