地球ことば村
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丁寧な挨拶と気軽な挨拶(カンボジア)

 カンボジアにおける正式な挨拶の作法は、とても丁寧である。手のひらを胸の辺りで合わせて、相手に敬意を 示しながら、「チョムリアップ・スゥオ」(申し上げる・聞く=お尋ね申し上げます)と言うのが、はじめまして、 またはこんにちは、の挨拶。手を合わせることを、「ソンペアッ」といい、合わせる手の高さは、自分と比較した 相手の身分、年齢に応じて、下から順に胸、口、鼻、眉、額、と上がったり、下がったりする。

 つまり会って一瞬のうちに相手を自分の立場に比してどのような立場にある人かを考えなくてはならない。また ソンペアッの高さのほかにも常日頃から、目上、年上の人を「ボーン」、目下、年下の人を、「オーン」とする呼称は、 自分の立場を常に相手との関係を、会話の中できちんと位置づけていく証でもある。基本的には、年齢の上下が考慮 されるが、たとえば年上の妻であっても、通常、妻は「オーン」、夫は「ボーン」と呼ばれる。また年下でも大切な客や、 上司であれば、「ボーン」呼ぶこともあり、呼び名で常に相手との位置関係は明確にされる。ボーンとオーンは、日本で 言えば、先輩、後輩といった意味合いも含まれるため、こうした上下関係は、きびしいだけではなく温情的でもある。

 先生には、たとえ毎日会うとしても尊敬の対象なので毎朝こうした挨拶を繰りかえす。筆者も首都にあるカンボジア 語学校に毎日通っていたときは、先生が教室の入り口に毎日立っておられて、教室に入ってくる生徒一人一人と丁寧に ソンペアッの挨拶を交わされていた。しかし、通常近所のおばさんやおじさんに会うとき、こうした挨拶を繰り返しする と、相手もソンペアッで返さなくてはいけないので、丁寧なひとだと思われる一方で、毎日の挨拶には仰々しすぎると 考えられているため、初めて会った時以外はソンペアッはしない。友達同士なら、「スゥオ・スデイ」、英語で言う ならば“Hi!”といった感じの挨拶が普通である。しかし、若い人同士以外では、あまり一般的ではない。「おはよう」、 「こんばんは」、「おやすみなさい」などに当たる時間帯ごとの挨拶もあるが、外来語の翻訳語のように受け止められて おり、これも教科書には載っているものの、実際にはあまり使われない。

 そこで気軽な挨拶としてあるのが、「どこに行くの(タウ・ナー)?/どこから(帰って)きたの(モーク・ピー・ ナー)?」)、「ご飯はもう食べた(ニャム・バーイ・ハウイ)?」のことばである。「どこに行くの?」と聞かれると、 「市場に行ってくる」とよく返事をする。さらに会話が進むと、どこに何が売っているのか、それはいくらなのか、など と具体的に聞かれることもある。村でも都市でもモノの値段や、モノがどこに売られているのか、条件がさまざまで基準 を見極めるのが難しい。特にこのご時勢は、変動がめまぐるしい。そこで、情報の交換が日々をやりくりする上でたい せつな事項となる。挨拶をしつつ、会話が弾めば互いに情報交換もできる。モノに値札がついてないからこそなされる 頻繁な情報交換であるといえよう。

朝日 由実子(上智大学大学院博士課程)