地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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「言語ヒッチハイクガイド」


松岡亜湖 小学校教諭・名古屋市在住

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 朝晩涼しくなってきました。私は超の付く寒がりなのですが、それでも、10月にまだ半袖で過ごせるのが自分でも不思議です。ヒート・アイランド(和製英語かと思ったのですが、アメリカを例にナショジオにも載っていた http://nationalgeographic.org/encyclopedia/urban-heat-island/ ので、正規の気象用語なのかな)現象で、日本の都市部はもう熱帯になっているのかもしれません。雨の降り方にしても、今はマニラより名古屋の方がスコールっぽいですし。

まずはお知らせを2つ。
 第一回でご紹介した笠寺観音で<秋限定!和小物作りを楽しむ、かもん・カフェ>を10月22日に行いました。


お父さん、奮闘中です


完成した黒金魚を片手に、はい、チーズ!


着物姿が素敵な喜代子先生と、松ぼっくりのオーナメント作りや
キノコのように可愛い針刺し作りを楽しみましょう!!

 当初は<和に親しみお土産を作るイングリッシュ・カフェ>として外国人を主な対象に企画するつもりだったのですが、蓋を開けたら日本人の裁縫離れを実感、いろんな人に参加してもらう方が楽しそうだということになりました。
 次回は11月19日(土)。10:00~と11:00~、各回定員8名・参加費800円で、和小物を作るワークショップを行います。英語広報も行いますので、参加者が多国籍になった際も楽しめることが参加の条件です。裁縫は苦手でも大丈夫。材料はジップロック袋で1人分ずつセット済み・糸は針に通され玉結び済みです。準備&講師の亀山喜代子さん、講師補助のかずえさん、ありがとうございます!&引き続きよろしくお願い申し上げます。
 なお、19日の12:00からは、かんのん広場&かもん・カフェ紹介動画に英語字幕を付けます。翻訳や英語にご興味のある方はご一緒にどうぞ。こちらは無料(講師は私で、手持ちの電子辞書・PCウェブ辞書で10冊分の串刺し検索を参考にして、訳文をその場で練り上げます)ですが、かんのん広場内で買い物を行うことが参加の条件です。

 それから、第三回でご紹介したJIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)のチョコ募金が今年も始まります。http://jim-net.org/blog/news/2016/10/1119-wo.php
 11月19日がキック・オフ・イベントで、鎌田實さんのお話も聞けます。地震大国でありながら原子力発電所を抱える日本にとって、放射性物質被害は他人事ではありません。多くの方が関心を持つことで、現状が改善されるきっかけになることを願います。

 さて、超今更でスターウォーズ・シリーズを見ております。最初の驚きは「インディー・ジョーンズ(ハン・ソロ役のハリソン・フォード)、めっちゃ若い!!」とか「レイア姫ツンデレだ」とか「<lieutenant>って言ってるのに警部じゃない!!」とか、物語外の部分でした。(洋画で「ルテナント(lieutenant)」と言えばコロンボ警部ですが、スターウォーズでは「中尉」「少尉」の意。因みに、イギリスの警部はinspectorなので、ポワロの相棒はinspector Japp、ホームズの相棒はinspector Lestradeです)旧作3篇を見て話をつなげて、やっと面白さが感じられましたが、やっぱり「インディー・ジョーンズ」の方がいいなあ。謎・人物相関図・年表(出来事の時系列表)が欲しいミステリ脳には合わなかったのもあり、今まで見ていなかったのでしょう。第一篇でダースベイダーかレイア姫が暗殺でもされていたら、大喜びで見たんですが。
 で、ミステリ脳的に大きな不満。「帝国の逆襲」で、とあることが分かるんですが。。。伏線ないじゃん。出来の悪い推理物の連続殺人犯のとってつけた動機にああいうのあるけど、あの告白、みんな納得してるの?とネット検索したら、やっぱり、(特に当時映画館で見て)信じなかった人多数のようです。そりゃあさあ、名前で分かるじゃん?と言われたらそれまでなんですけど(ここ、言語ネタです)。欲しいな、伏線。日本人(KとTH、VとFは別)でミステリ脳ですから。

 たぶん、旧作3篇を観ると<もやん>と残るものが新作で解消されるんだろうなと考えると、技術の進化を考慮した点でも、うまい戦略ですね。スター・ウォーズの本編そのものよりも、この企画の仕方と展開方法の戦略の方が面白く感じられました。たいていの物語は、各人物の事情を同時進行(三谷幸喜の描き方が特に好きです)で書いてるので、「スターウォーズ」の、<一方から見た未来を描き、過去に戻り双方の事情が見えてくる>という展開は新鮮に感じられました。たいていの国の歴史には、こういう振り返り方が必要なのかもしれません。今の立ち位置や自国の立場だけでは見えないものがいっぱいありますから。
 ともあれ、読書も立ち読み歩き読みが好きで、じっと座ってるのが苦手な私には珍しく何本もDVDを視聴したので、せっかくだからネタにしました。

 今回の本題は、「言語ネタなの?」と問い返されそうな内容ですが、人間が自分の言葉や文化を残すには、自信を持って発信することが大切です。表現力を高め自尊心を持って言葉を発するには何が必要か、を考える回として書きました。
 というわけで、今回のテーマです。


7.次世代育成・文化の持続の道を探る~フィリピン人の立場で、日本人の立場で


 今の私は大人で、海外支援に関わっていて、フィリピンに行けば「外国人」という少数派になり、文部科学省をボスとして教員という本業に務めております。つまり本業の理念は自分の裁量だけでは決められません(ボランティアは自分のミッションを設定して、選り好みできますし、自前の団体を立ち上げることも可能ですが)。
 だからでしょうか、スターウォーズ「帝国の逆襲」で、あの場面に「いや、あんた指導者でしょ?部下の犠牲がある(あった)わけでしょ?そんな唐突に関係の暴露で問題解決を試みて、あっさり相手が寝返っても、それはそれでボスを信じて動いて犠牲になったり仲間を亡くしたりした、帝国軍と反乱軍の下っ端の立場ないじゃん?」と、上司次第でミッションと立ち位置が激変する下っ端兵士の立場が、自分の立ち位置と妙に重なって感じられ、とても切なくなってしまいました。……にしても、英語圏(特にアメリカ)では、あの場面への反応、当時はどうだったんでしょうね。あっさり受け入れられたのでしょうか。(「ジェダイの帰還」まで観れば、また違うのですが)
大流行のスターウォーズ、たぶん子供の頃にテレビでは見た筈なんですが、まるで記憶に残っていません。今見ると、組織と個人、師弟関係、人生観、家族観(「オイディプス王」へのアンチテーゼにもなりそう)など、なるほどと感じる部分は、いろいろありますから、人間の感じ方は、経験や立場によって変化していくものなのでしょう。ヨーダの台詞 ”If you leave now, help them you could; but you would destroy all for which they have fought, and suffered.”「助けることはできても――彼らが命をかけたものを無にするぞ」なんて言葉は、今なら、心にぶっ刺さりますけど、社会経験が殆どない子供の頃に聞いても、さっぱり意味が分からなかったに違いありません。積み重ねの上に成り立つ矜持や自負心は、机上の空論で培うことは不可能ですから。

 子供から大人になる中で、様々な経験をし、いくつもの立ち位置を保ちながら生きていく中で、感じ方や考え方は変化します。3月のマニラ訪問で、マニラで都市部の貧困支援のボランティアに関わるケビン・ガビトさんに、バギオではカリンガ州の先住民族として文化保全に関わるエドガーさんに、話を聞いて動画を撮影、ケビンさんには活動紹介の原稿も書いていただきました。まずはケビンさんの活動紹介です。動画と、寄稿(和訳は私です。全てルビ入りで日本語学習中のケビンさんに送り、確認済み)をご覧ください。

活動紹介動画
https://www.youtube.com/watch?v=c0O2SGyF5ho


人生の価値を高める道:
社会を支える活動にボランティアで参加する

枠に囚われず、立場を共にし、手を差し伸べよう。
そこから始まる。


 困難な環境にある人々への思いやりは、人間として生きていく上で欠くことの出来ない大切な要素であり、誰かを支援する志を支える大きな力になるといいます。優しく親切でありたいという思いは、常に私の心の中にあり、親切を尽くす行いは充足感をもたらし至福の喜びを私に運んでくれます。互いに何かを交換するというのではない、見返りを求めない愛情を抜きにしては、この喜びは感じられません。

 そして、思いやりを行動に移す方法の一つが、困難な環境にある人々の状況を改善するために行動し、公の場に支援を呼びかけるボランティア活動です。すぐには手ごたえを得られず、自分を試され、精根尽き果てることもありますが、それでも、あらゆる道を乗り越えた先には、悲惨な環境にあってもなお人間は前向きに変化することが可能だと実感することができます。この感覚は、何物と引き換えにすることもできない大きなやりがいです。

2007年、友人とYPER(Youth Pursuing Excellence and Reform:より良い社会の実現を目指す若者グループ)を、パヤタス地区の若者の団体として設立し、ボランティア活動に携わり始めました。YPERは、NYC(ナショナル・ユース・コミッション、フィリピン青年諮問機関)と、複数の韓国のNGOの認可を得ています。発足以来数年間、子供や若者のエンパワメント(能力の向上と自立支援)や、LGBT(性的少数者)と女性を取り巻く環境の改善を目指すボランティア活動に積極的に取り組んできました。

(訳注:パヤタスは、ケソン市内のバランガイ(地区)名で2010年時点で12万人が暮らしています。北東部に位置するごみ山を指す場合は、パヤタス・ダンプサイトと言います。ダンプサイト脇のルパン・パガコ区に、ごみ拾いに生計を依存する貧困層の多くが生活し、NGOの支援活動はここを拠点に行われます。後述のごみ山崩落の被災者の多くはルパン・パガコ地区居住者でした。

訳注終わり)

 このような活動を行う中で、NGOのボランティア活動に魅力を感じるようになり、日本の総理夫人が来比した際に訪問したソルト・パヤタスのプロジェクトに興味と関心を抱きました。ソルト・パヤタスは、日本人が立ち上げたNGOで、住民のための奨学金支援と、2000年の「ごみ山崩落」で多くの人が被災して以降、職業訓練支援を行っている団体です。

 総理夫人の思いやりのある振る舞いを知ったのを機に、支援を必要とする同胞に手を差し伸べたいという思いは更に大きくなりました。ソルトのフェイスブックページを検索してメッセージを送り、団体への関心と、ボランティアとして支援活動に参加したい旨を伝えたのです。その日の内に返信があり、ソルトのボランティアとして登録が確認され、ソルトが現在行っている活動のひとつであるアトリエ・リカへの参加の打診があったのです。

 最初の1か月間は、ソルトの皆さんが、インテリア・デザイナー(室内装飾家)とファッション・デザイナー(服飾意匠図案家)として働く私について知る期間でした。そして、販売の分野の技術的な協力と、斬新なデザインの提案や助言を通して積極的に活動に関わるようになりました。数か月に及ぶ活動の中で、スタディ・ツアーや作業所・図書館の活動に深い関わりを持つに至り、パヤタスの女性が自ら運営する作業所のクロス・スティッチのデザインや、地域の図書館の読み聞かせの活動に参加しました。中でも私にとって一番やりがいがあり、全身全霊を傾けて打ち込んだのは、やはり、私自身の関心分野である芸術の活動でした。「Making ART(芸術的創作を通して、子供の希望を育てる活動)」こそが、私にとって一番大きな支援活動だったのです。

 ソルトの新プロジェクト「Balay Kalinangan (子ども図書館)」は、リザール州・モンタルバンのカシグラハン地域で、JICAの支援を受けて一年がかりで建設、今年6月に開業しました。カシグラハン地域に暮らす子供のための図書館の内装デザインの相談役のひとりとして、私もこの活動に参加しました。

(訳注:子ども図書館のHP)
http://www.saltpayatas.com/%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E5%9B%B3%E6%
9B%B8%E9%A4%A8%E3%80%8Cbalay-kalinanngan%E3%80%8D%E3%82%BD%E3%
83%95%E3%83%88%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%B3%EF%BC%81

 まだ9歳の頃、2001年から2年間、叔母に連れられていとこと一緒に参加した夏休みの子供の世話の活動を引き合いに出すまでもなく、子供の支援活動は、私にとって特別な領域です。あの時のことを思い出すと、例え自分が子供であっても、真摯な愛情を交わし合い温かい思いやりを伝え合う機会はいくらでもあるのだと実感できます。

 困っている人を積極的に支援する私の活動は、タギッグ市の日本語学校で行われたフェアトレードイベントへの参加により、更に広がりました。日本のNGOが数多く出店していたこのイベントに、参加していたアイキャン(ICAN :International Children’s Action Network)のインターンが、私に声をかけたのです。彼らは私がソルトのボランティアだと知っており、フィリピンの最大の経済的課題つまり貧困の解決を目指して、苦労を厭わず情熱をもって活動する姿に感心していました。アイキャンの誘いを受けて、私は、彼らのグループに加わり、子供の意識向上のキャンペーンに参加しました。4月から参加した私の主な役割は、路上で働いたり暮らしたりしている子供に芸術やスポーツを教えることです。毎週土曜日にアート・セラピー(芸術的な創作を通して内面の問題に対応する療法)を行い、日曜日は一日中、ダンスの活動と、学校での授業に関わる個別指導を行います。

 

 このように、ごくありふれた内容でありつつも惜しみなく何かを提供する活動は、私自身の責任感の向上に大きく寄与するだけでなく、私の周りにいる人たちへの気持ちをも温かなものにしてくれます。私にできる活動の幅が広がるだけで、パヤタスの子供や女性の生活の改善のため、私もまた重要な役割を担っていると実感できます。こんな箴言があります。「誰かの姿に感動するのは素晴らしい。誰かを感動させるのは奇跡さながらに素晴らしい」希望や知恵を求めながらも触れる機会のない人が身近にいる限り、私はこれからも、ボランティア活動を通して人の心を動かし、よりよい社会の構築を目指して自らの役割を担い続けます。

ケビン・F・ガビト
2016年8月24日

   



 如何でしょうか。ケビンさんの活動紹介を見て、自分のボランティアとしての有り方がどうだったかな、と考えました。パヤタスを紹介する時、私はいつも冒頭に、「ゴミの山」を話題に出していましたが、それでよかったのかな、と。仮に私が「ゴミ処理」方法を最大の問題として考えているのなら、冒頭からゴミ山の話題を出してもよかったのかもしれませんが、私はパヤタスに暮らす人たちの環境改善(自尊心と健康と栄養の回復)を願っていて、極端な話、パソコンと水質清浄機と空気清浄機とを配布することで、在宅勤務・家の中の環境改善による自尊心の回復が可能なら、仮の解決になると思っています。ならば、まずは、「人間」に注目した活動紹介をするのが、より良いやり方なのでしょう。ゴミ山で注目をひいてお金を集めても、それは、彼らの人生の価値を認めたことにならないのでしょう。ヨーダの台詞が心にぶっ刺さるわけです。

 エドガーさんのお話もご紹介するつもりでしたが、紙幅が尽きてしまいましたので、また次回。先日バギオに台風が襲来、工房は(停電はあったそうですが)何とか無事だったようで、ほっとしています。8月のダバオ訪問ではマノヴォ族のガボンさんと話をしましたので、第四回・五回で、フィリピンの先住民族の文化や言語をご紹介します。

 なお、今回のケビンさんの寄稿の原文は英語で、キリスト教らしい表現がいっぱいです。ぜひ合わせてお読みくださいね。

【2016年11月11日掲載】


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