地球ことば村
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アルタイ語


モンゴルの西境に連なるアルタイ山脈の北にゴールノ・アルタイスク(山岳アルタイ)という町がある。この町を中心とする地域に住む人たちが話していることばがアルタイ語といわれる。かつてオイロートと呼ばれたこともあった西域のことばの一つである。

ここで言うアルタイ語はいわゆるアルタイ語族とかアルタイ諸語と いうものとは違う。後者はモンゴル系の諸語・チュルク系の諸語・満州ツングース系の諸語を合わせて一つにした仮想的な語群である。一方、アルタイ語とはアルタイ山脈北西部に話される一つの民族言語で、だいたい6つ小さなチュルク系の氏族が話してきた言語が一つにまとめられて出来た若い民族語といってもよい。アルタイ語は大きく北南2つの方言に分けられるが、それぞれを更に小さな氏族的な方言に分けることもできる。南部のアルタイ・キジと言われる方言が文語として認められ、これが1938年以来キリル文字で書かれている。

アルタイ自治共和国の人口は1989年の統計で約7万人、このうちアルタイ語を母語として使える人の数は約6万人、全体の84.3%だった。70年ばかりソ連に支配されていたので、ロシア語を話すのが全人口の15%で、これにはもともとのロシア人も含まれる。旧ソ連の他の地域に比べて民族語の立場は非常によい。アルタイ語とロシア語との二言語使用をするものがいつかアルタイ語を止めてロシア語単独の話し手になる可能性はまずないという(チェレミーシナ『シベリヤ先住民族言語』1992)。

アルタイ語には、他のチュルク諸語に共通した特徴が備わっている。例えば、母音調和もあるし子音交替もある。語順は動詞が文末に来て、接辞は後ろ置きに続くから、日本語のように膠着的な文構造を作る。しかし日本語と違って人称の別がはっきりしていて、数の区別もあって、格も6つある。

学校教育ではアルタイ・キジが統一語として使われるている。新聞もこの言語で発行されていて、ゴールノ・アルタイスク市には教育大学もあって、言語資料収集をはじめとして、近隣の民族語ハカス語やショル語の研究も行われているという。

しかしこの規模の民族言語が安定して生きていけるだろうかと問いかける人々がいる。またそのためにはどのような言語政策をとったらいいかと真剣に考えている人たちである。今日の文化的な社会状況の中で、十分な数のインテリの集団をもち、科学技術を発達させて、批判的ジャーナリズムを育て、国際的な視野で学校教育を行う。このためにいわば山岳的な環境のなかでどうしたらいいかという問がアルタイの人々自身から発せられたのだった。当面の答は、「できる」というものだった。数千人の規模でも民族語話者が自覚して結集すれば、それは出来るはずだ。アルタイには南北合わせて6万人の母語話者が健在なのだから。この答が方言間のいさかいを納めた。そんなことをしてはいられないからというのである。

《金子亨:言語学(2006年掲載)》