地球ことば村
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クルド語

クルド語(インド・ヨーロッパ語族-インド・イラン語派-イラン語派)

  クルド語というのは、中東クルディスタン地域で話されている3つから4つのことばの総称である。北部クルディスタンのクルマンチュ語(トルコ、シリア、イ ラク北部、イラン北西部)、南部のソーラニ語(イラク東部とイラン西部)、東部のザザ語(トルコ東部)などである。またソーラニ語を更に南北に分けて、イ ラン西部で話されている方言を特にグラニ語ということがある。統一クルド語というものはない。しかしこれらの言語を話す人々はクルド語を話しているという 自覚を持っているという。北のクルド語はラテン文字表記であるが、ソーラニは伝統的にアラブ文字の表記をもつ。

 クルディスタン は東西に伸びるシルクロードと南北を貫くスパイスロードとの交差点にある広い山岳地帯である。北にはアララット山が聳え、南の東西は「肥沃な三日月地帯」 に広がっていて、そこはリンゴ、ブドウなど多くの植物の原産地でもあった。この地域には4千年前からさまざまな民族が出入りして交易と抗争を繰り返してき た。しかしクルド人は史上一度も統一国家を作ったことはなく、諸侯に率いられたり、部族的に分かれたりして牧畜と農業を営んできた。東にトルコ、西にイラ ン、南にイラクなどの国家が成立してからは、クルド人はそれぞれの国の少数民族として生きてきた。今日ではイラクのクルド人が、大きな歴史的犠牲を払った 後に、やっと国民を構成する政治勢力としての地位を得るようになった。これからはトルコ共和国内のクルド人が、将来のクルド人全体の国際政治的な運命を決 める役割を果たすことになるだろう。

 クルド語に一番近いのは近代ペルシャ語であり、両言語の間にはきちんとした音韻の対応関係 がみられる。人称代名詞などもイラン語派の他の言語と形態的に対応する。動詞構造では、行為者とその定・不定関係が接尾辞で表示されるなどの特色を持ち、 SOV語順の言語として関係詞は名詞に後続する。また受動形式が能格性と関係しているように見える。文法構造はいかにも印欧語的である。

  クルマンチュ語とソーラニ語については古くから辞書と研究書がある。クルド人の一部がかつて旧ソ連に属していたアルメニアに住んでいるので、ロシア人によ る研究もいくつか見られる。しかしとりわけトルコ東部のザザ語についての記述は少ない(小島剛一『トルコのもう一つの顔』1991)。

  トルコ共和国は、1991年まで自国内にクルド人という少数民族がいることを認めなかった。ちょうど日本政府がアイヌ民族に関して1987年まで国連人権 委員会宛に「国連人権規約に定められた権利の享受を否定された少数民族は日本にはいない」と報告したきたようである。しかしトルコの事態ははるかに厳し い。トルコ議会で初めてのクルド人代議士レリヤ・ザーナ氏が1991年にトルコ語で議員就任の宣誓を行ったとき「私はクルド人である」とクルド語で語っ た。この発言と彼女がクルド人の衣装を着て議会に立ったことによって彼女は懲役15年の刑を課せられた。これはほんの一例に過ぎない。今でこそ日常生活で クルド語を使っても拘束されることはなくなったが、出版物に対する制約は未だに強い。ノーム・チョムスキ-は2002年暮れにロンドンのセントポール寺院 で行った講演で、トルコ共和国内のクルド人が人権に関する重大な危機のただ中にあることを指摘しながら、それでなお「クルド民族人権プロジェクトのような 大衆的で独立的な組織www.khrp.orgが決定的な影響力をもてる状況がある」と希望を語っている。

《金子亨:言語学(2006年掲載)》