地球ことば村
言語学者・文化人類学者などの専門家と、「ことば」に関心を持つ一般市民が 「ことば」に関する情報を発信!
メニュー
ようこそ

【地球ことば村・世界言語博物館】

NPO(特定非営利活動)法人
〒153-0043
東京都目黒区東山2-9-24-5F

FAX:03-3713-9932
http://chikyukotobamura.org
info@chikyukotobamura.org

ブルガリア語

ブルガリア

 ブルガリアは南東ヨーロッパのバルカン半島の北部にあって、北からギリシャに、西から黒海に接する共和国で、NATOとEUに加盟しています。首都はソフィア、人口は約758万人(2008年IMF)、そのうちブルガリア人が人口の8割を占めています。

 歴史は古く、681年に第1次ブルガリア王国が成立しました。しかし第2次ブルガリア王国は1396年にオスマン・トルコに侵略され、トルコの支配はその後380年余続きます。しかし露土戦争(1877-78)の最中、ロシアに占領され、1879年には第3次ブルガリア王国が作られます。1944年から1989年まではソ連と共産主義の支配下にありましたが、1991年に民主的な新憲法を作って新しい共和国として生まれ変わります。EU加盟は2007年のことです。

ブルガリア語とキリル文字

 ブルガリア語はインド・ヨーロッパ語族のスラブ語派のうちの南方群、すなわち南スラブ諸語の一つです。南スラブ語にはブルガリア語、マケドニア語、セルビア・クロアチア語、スロベニア語が含まれますが、ブルガリア語とマケドニア語はその東方分枝といえます。

 ブルガリア語の歴史は文献的に10世紀の古ブルガリア語資料まで遡ることができます。これはスラブ語最古の文献資料の言語である古(代)教会スラブ語とほぼ同じものと考える人たちがいます。これは、ギリシャのテサロニキ出身のキュリロスとメトディオスという兄弟の聖職者が、モラヴィア(9-10世紀にかけて栄えたスラブ人の王国)に東方正教会のキリスト教を布教する目的で、9世紀後半に、彼らが創始したグラゴル文字を用いて聖伝や祈祷書などをギリシャ語からスラブ語に翻訳したのですが、このときに書き記された書物が古教会スラブ語の文献といわれます。この言語は当時のブルガリアのスラブ人の言語に極めて近いものだったと言われます。その後この古教会スラブ語の伝統はブルガリアで新しい発展を遂げ、ここで作られたキリル文字による多様な書物の形で、10-11世紀にかけてセルビアやロシアに伝えられて、そこで書きことばの模範となりました。今日、ロシア語などの表記に使われるキリル文字はこの伝統にそったものです。

ブルガリア語の文法の特徴

 ブルガリア語は、ロシア語、ポーランド語、セルビア語などの他の代表的なスラブ諸語と違った、いくつかの文法的な特徴があります。その主なもの7つをあげておきます。
1)定冠詞的な限定を表す接尾辞があります。(ロシア語には冠詞がありません。)
  例えば、uchenik(生徒)に対してuchenik-t(その生徒)のようです。
2)名詞・形容詞などに格変化がありません。
3)特殊な助詞shcheを直説法現在形つけてによって未来時制が表されます。
  例えば、shche chita で「読むだろう」になります。
4)動詞直説法の時制形態が多くあります。9つの時制形態があると言われます。
5)推論・伝聞・驚異などを表す「第2直説法」という形式があります。これはトルコ語の影響を受けた書きことばのカテゴリーと考えられていて、この形式を持たない方言も多いといいます。
6)動詞の不定形が消滅しています。そのため辞書の見出しでは直説法1人称単数形が表示されます。
7)補語に人称代名詞を添えて補語を強調する語法があります。例えば、Nego go obicha Donka(彼をドンカは愛している)ではgoがnego(彼を)に添えられて補語が二重になっています。

 ブルガリア語は語彙にもいくつかの特徴があります。そのうちオスマン・トルコに支配されていた時代に入ってきた語彙は、標準語の語幹になっているものが850もあるし方言ではさらに多いと言われています。しかしやはり19世紀以来ロシア語の影響は圧倒的で、現代のブルガリア語の語彙の重要な部分をなしています。

ブルガリア語の簡単な会話

 キリル文字を使ってみましょう。

Здравейтеズドラヴェイテ「こんにちは」(いつでも)
Добро утроドブロ ウトロ「おはよう」
Добрър денドバル デン「こんにちは」(昼間だけ)
Добрър ветерドバル ヴェチェル「こんばんは」
Благодаряブラゴダリャ-「ありがとう」
До вижданеド ヴィージュダネ「さようなら」

《金子亨:言語学(2006年掲載/2010年改訂)》

(佐藤純一「ブルガリア語」『世界の言語ガイドブック1』ヨーロッパ・アメリカ地域 三省堂1998, pp.279-294を参考にしました。)