地球ことば村
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ソマリ語

 ソマリ語は北東アフリカに広がるクシ系の言語の一つです。クシ語派 の話し手は、エジプトからインド洋沿岸にかけて全体で1300~1400万の 人々によって話されているといいます。そのなかでソマリ語に属するの は一番北東の、1991年まではイギリス、フランス、イタリアなどの植民 地であった地域に住む人たちです。次の二つの地図を比べてみましょう。 カラーの地図(Wikipedia)は地域の国境線を、白黒の地図(『言語学 大辞典』I、p.507)はソマリ語の方言分布を表しています。国境線が 言語分布と違うことに気がつきます。

ソマリア地図 ソマリア言語地図

 ソマリ語は北ではジブチの一部に、西ではエジブトの東、南では、 ケニアの東にも話されています。しかし方言の間の違いはあまり大きく はないそうです。1960年代から1991年まで南部のモガディシュを首都と したソマリア共和国がありましたが、その国の公用語はソマリ語で、 その方言には配慮する必要がなかったようです。

 ソマリ語は1972年以来ラテン文字で表記されるようになりました。 この言語の音では特に喉音がよく響くのですが、喉音はhをつけて表わし ます。例えば、dh、khです。 喉音はほか に x、c、q、? を加えて、6つあります。それに、母音もかわったシステム をもっています。正書法で母音は5つですが、そのどれもが後舌音と前舌音 に分かれていて、アという音(/a/では広口のア([a])と狭口のア([ae]) を区別します。この区別は、例えば、[a:d](行く)vs [ae:d](とても) のように、意味の違いを持っています。語は高さアクセントがあります。 高い音は同時に強い音になります。

 文法にもいくつかの目立った特徴があります。名詞には文法性の区別 があります。多くの名詞で語尾に -k、-t 系の整備時がつくと、それぞれ 男性、女性を表します。しかし複数になるとこの区別は中和されて、すべて -t 語尾になります。

 動詞にもおもしろい特徴があります。古い層の動詞では人称接辞が 前置き、それ以外は後置きになりますし、接辞を加えるだけでなく、完了 と不完了の区別をするには、動詞の語幹の母音を変えて表すなどの文法的 な操作をします。つまり、接頭、接尾、語幹母音交替という操作を種類別 に使い分けています。

 またいくつかの副詞的接辞がまとまって単独の接辞群を作って、 項の文法関係を表現することがあります。この接辞群を作るのは u( ために)、ku(で)、ka (から)、la(いっしょに)の4つで、 {i + u + ku + ka](私が_ために_で_から)のセットをつくります。 あらかじめ前に置かれたばらばらの単語群を関係づけて副詞語群にまと める役をします。これは次のような文に出てきます(中野暁雄「ソマリ 語」『世界のことば小辞典』p.252):

will-kay ceelkaa xadhig la iigaga soo saaray
息子-私 井戸 綱 誰か 私・ために・で・から こちらへ 上げる
(誰かが綱で私の息子をその井戸から上げてくださった)
※ここで iigaga は i+u+ku+ka が重なって i+I+GU+Ga から i+i+GA+ga に転じたかたちです。

 語順はこの文のように動詞が後ろに来ることが多いようですが、 主語と目的語の位置は交替できるし、動詞が前に出ることもあるようです。 一方、動詞に先立つ要素には厳格な語順があって、上の例もその語順に 従っています。

 ソマリ語の挨拶ことばを中野さんの挙げた例からいくつか挙げて おきましょう:
Subax wanaagsan(おはよう)
Garab wanaagsan(こんばんわ)
Habeen wanaagsan(おやすみ)
この3つは答えも同じ形式
Nabad geliyo(ありがとう) 答え:Nabad diino

 ソマリ人の生業で一番多いのはラクダの牧畜です。約70%がラクダ か山羊の牧畜をして、その他が都会人という割合だそうです。しかし その生活も1991年の政変以来いまだに続いている内戦によってすっかり 崩壊しました。内戦の犠牲者は50万人以上、難民が100万人といわれてい ます。1992年以来国連ソマリア活動UNOSOMが数度にわたって武装解除活動 を行っていますが、ソマリア全土を支配する大小合わせると数十にのぼる 武装氏族集団が相互に闘争を繰り返して、何度もの和平の試みがあったの ですが、すべて失敗に終わっています。北部の元イギリス領ソマリアでは いくらか安定を見ましたが、首都モガデショを中心とする南部での戦闘は いまだに熾烈なものがあります。そのために中部・南部のソマリ人達は、 幸運な状態でも、写真のような難民生活をおくっています。

難民キャンプの様子   難民キャンプの様子

写真提供:UNHCR

《金子亨:言語学(2008年掲載)》