地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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西ポレシア語(の試み)

 ポレシエ(ウクライナ語:ポリーシャ、ベラルーシ語:パレッセ)は、北ウクライナ、南ベラルーシ及び東ポーランドにかかる歴史的な地 域の名称です。この地方のスラヴ人の文化、言語、風習などには非常に古風な特徴があることで有名で、このあたりをスラヴ人とその文化の揺籃の地と考えてい る学者もいます。

 現在ポレシエ地方で話される言葉は、東スラヴ諸語に属するベラルーシ語とウクライナ語の中間的な方言であり、音声・音韻、文法におい て両語それぞれの特徴が見られます。そのためポレシエ地方の言葉がウクライナ語とベラルーシ語のどちらの方言に属するのか、学者によって意見が分かれるよ うです。

ベラルーシ語方言地図
ベラルーシ語の方言地図。左下の黄色い箇所が西ポレシア方言。
(出典:Беларуская мова Энцыклапедыя 55頁)
※地図をクリックすると拡大されます。

 ポレシエ地方には文化的求心力となる地域がなかったこと、人々に民族的及び言語的アイデンティティに対する強い執着がなかったこと、 常に支配的な言語との二言語併用があったことなどが理由で、ポレシアの言葉は地元の人たちが日常会話で用いるだけで、規範を持った「書き言葉」としての独 立した「ポレシエ語」は、僅かな例外を除いて、発達しませんでした。

 社会体制の変化が見え始めた1980年代、特に西ポレシア地方の言葉を独立した1言語「西ポレシア語」として「文語化」を試みる運動 が起こりました。その運動の中心人物は、国境の都市ブレストに近いアグデメル村出身の詩人で言語研究者のミコラ・シリャホヴィッチ(Мыкола Шыляговыч)です。

 彼のイニシアティブの下、1986年にベラルーシの首都ミンスクで社会文化団体「ポレシエ」が結成され、20~30人の詩人らが「西 ポレシア語」で文化活動を行い、彼自身も80年代の半ばから90年代半ばにかけて、ベラルーシの様々な文芸誌に「西ポレシエ語」による詩や散文を発表し、 言葉の規範の提案なども行い、この運動の規模は広がっていくかに見えました。しかし、文語としての西ポレシア語の発達は90年代末には縮小し、21世紀初 頭にはすっかり下火になりました。その理由として、後にシリャホヴィッチがポレシアの住民をバルト人の末裔と考え言葉の名前を「ヤトヴィンガ語」としたこ と、言葉の規範として人工的な擬古体を積極的に取り入れることが受け容れられ難く、規範化が進まなかったことなどが挙げられるでしょう。

 最後に、シリャホヴィッチによる「西ポレシア語」の詩作を見てみましょう。

  ПОЛЫШЧУЦЬКА ПIСНЯ
  ポレシアの詩(うた)

  З чым зрумнеты пiсню
  ポレシアの詩(うた)は
  полышчуцьку?
  何に喩えられるべきか?
  Но з Полiссем.
  喩えられるのはポレシアの土地だけだ!
  Рыхтычна - воно!
  ポレシエの詩(うた)はポレシエと瓜二つだ!
  Еко дiты до батькj пудхожы,
  子供が父に似るように、
  Так вона пудхожа до ёго!
  ポレシエの詩(うた)もポレシエに似ているのだ!

「ベラルーシ」誌、1985年第12号

《野町素己:北海道大学(2009年掲載)》