地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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ラパヌイ語-
チリ領イースター島で話されていることば



1. ラパヌイ語とは

 ラパヌイ語は、イースター島の住民約2,000人及びタヒチのラパヌイ族コミュニティで話されている言語です。ラパヌイ語は、タヒチ語、ルルツ語、マオリ語、ハワイ語などと同じ、オーストロネシア語族東部ポリネシア語派に属します(表1参照)。東部ポリネシア語派の中で、唯一古代文字を持った言語でしたが、そのロンゴロンゴ文字という文字は、解明されないまま、消滅しました。

表1 東部ポリネシア語派の語彙の対応表
日本語訳ラパヌイ語タヒチ語ルルツ語マオリ語ハワイ語
harefarearewharehale
ikai’aei’aikai’a
vaivaivaiwaiwai
puokoupo’opa’oupokopo’o
rimarimarimaringalima
vaikava, taimoanataimoana, taimoana, kai
rangira’ira’irangilani

 イースター島(スペイン語ではIsla de Pascua:イスラ・デ・パスクア)を、ポリネシアの人々はRapa Nui(ラパヌイ)と呼んでいます。タヒチの国際空港の行先表示にもRapa Nui(もしくはIsla de Pascua)と表記され、チェックインカウンターでも、行先をRapa Nuiとつげます。島、人、言語はそれぞれ、ラパヌイ、ラパヌイ人、ラパヌイ語と呼ばれています(一般的に地域名を指す場合はRapa Nui、人や言語を指す場合はRapanuiと表記されます)。Rapaはタヒチ語で「島」もしくは「平地」、Nuiは「大きい」という意味です。また、イースター島はte pito o henua(テ・ピト・オ・ヘヌア:地球のへそ)という別名も持ちます。


2. ラパヌイ語の基本語順

 ラパヌイ語の語順について、簡単に紹介します。基本語順はVSO (動詞-主語-目的語)です。

  He  kai  au  i  te  ika.(へ カイ アウ イ テ イカ)
  現在 食べる 私 ~を 定冠詞 魚
  私は魚を食べる。

 名詞を修飾する形容詞は被修飾語の後に来ます。
  kai  rivariva(カイ リバリバ)おいしい食事
  食事  おいしい
  hoi  mai’taki(ホイ マイッタキ)美しい馬
  馬   美しい

 所有人称代名詞と数詞は名詞の前に置きます。
  ta’aku  puka(タッアク プカ)私の本
   私の   本
  to’oku  puoko(トッオク プオコ)私の頭
   私の   頭

 所有代名詞(ここの例では「私の」)は、ta’akuとto’okuがあります。詳しい説明は§3.を参照してください。

  e   toru  poki(エトル ポキ)3人の子ども
  小詞  3   子供
  e   toru  ta’aku  puka(エトル タッアク プカ)私の3冊の本
  小詞  3    私の   本

 数詞には様々な小詞がつきます。eは数詞が名詞を修飾するときに、数詞に前置します。基数詞の場合は、kaがつきます。(例:1 ka tahi, 2 ka rua, 3 ka toru…)序数詞の場合は、teがつきます。(例:第1 te tahi, 第2 te rua, 第3 te toru…)。


3. ラパヌイ語の人称代名詞

 ポリネシア諸語全般の特徴として、人称代名詞は複雑な体系をもちます。ラパヌイ語には、1人称、2人称、3人称の区別、単数、双数、複数の区別、また、1人称の双数と複数には、話し相手を含む包括形と、話し相手を含まない除外形があります。なお、2人称と3人称には、双数はありません(表2参照)。

表2 ラパヌイ語の人称代名詞
 単数双数複数
1人称autaua(包括形)tatou(包括形)
maua(除外形)matou(除外形)
2人称koekorua
3人称aiaraua


 所有人称代名詞には、譲渡可能と譲渡不可能の区別があります(表3, 4参照)。一般的に、所有者から切り離されない者、所有者と所有物の関係が従属的であるものは、譲渡不可能の所有代名詞がつき、所有者が所有物を他者に、譲ることができるものには、譲渡可能の所有代名詞がつきます。これも、ポリネシア諸語の特徴の一つですが、譲渡可能・不可能の分類は、諸言語によってそれぞれ異なります。ラパヌイ語では、身体部位名称、衣類など身体にまとう装飾品、親族名称、自身の名前、感情・思想、家畜に、譲渡不可能の所有代名詞がつきます。

表3 ラパヌイ語の譲渡可能の所有人称代名詞
 単数双数複数
1人称ta’akuta taua(包括形)ta tatou(包括形)
ta maua(除外形)ta matou(除外形)
2人称ta’auta korua
3人称ta’anata raua

ta’aku maika (タッアク マイカ)私のバナナ
ta’au puka (タッアウ プカ)あなたの本

表4 ラパヌイ語の譲渡不可能の所有人称代名詞
 単数双数複数
1人称to’okuto taua(包括形)to tatou(包括形)
to maua(除外形)to matou(除外形)
2人称to’uto korua
3人称to’onato raua

to taua hoi(ト タウア ホイ)私達2人の馬
to’oku toto(トッオク トト)私の血

 馬は、ラパヌイ人にとって家族同様の重要な家畜であるほかに、重要な「足」であるため、譲渡不可能の所有人称代名詞がつきます。譲渡可能/不可能のどちらの所有代名詞がつくかは、同じ名詞でも、話者によって揺れがあるのですが、馬に関しては、必ず譲渡不可能の所有代名詞が用いられれます。


4. ラパヌイ(イースター島)の言語-ラパヌイ語、スペイン語

 本土チリからの移民およびチリの政策により、スペイン語が支配的地位にあり、教科書は学期が始まる時に、チリ本土から輸送され、小中学校での教育はスペイン語で行われます。村の中心地では、観光客やチリからの移住者と会話するため、スペイン語が飛び交っています。また、チリワインや、エンパナーダといった、チリ本土から持ち運ばれた料理が、すべての商店の総菜売り場や飲食店に並んでいます(写真1参照)。


写真1 エンパナーダ

 しかし、ラパヌイ人同士での会話はもっぱら、ラパヌイ語です。村の中心地から車で10分ほど行くと、グァバ畑や低い山が広がり、ぽつぽつとならぶ民家では、世代を問わず、家族間や友人同士での会話はラパヌイ語になります。ラパヌイ人は、自身の言語に対する誇りが高い印象があり、同時にラパヌイ語が次の世代、その次の世代には消滅してしまうのではないかという危機を強く抱いている印象を受けました。


5.1. ラパヌイ人の暮らしー食生活

 イースター島というと、もっぱら、モアイ像もしくは森林伐採などの環境保護問題が、メディアで取り上げられ、ラパヌイ人の生活や言語は、広く知られていません。私も実際、調査へ赴くまでは、どのような日常生活なのか、想像がつきませんでした。ここでは、できるだけ、ラパヌイ島の人々の様子を分かりやすく解説したいと思います。
 ラパヌイの中心地であるHangaroa(ハンガロア)村に、レストラン、ホテル、観光ツアーデスク、レンタカー、スーパーが集まっています。村は比較的賑やかで、毎朝8時から13時半頃まで、イースター島の農家で栽培した野菜を、トラックに乗せて売りに来ています(写真2参照)。グアバの収穫のお手伝いをした時は、13時半に村の中心地での八百屋を閉め、家に戻って昼食を食べた後、数時間昼寝し、翌朝のための、野菜の収穫をしてトラックに詰めた後、夜22時頃まで、グアバの収穫を行いました。


写真2 村の中心地の八百屋

 私がラパヌイを訪問する前に調査で滞在していた仏領ポリネシアでは、ウナギを食べない事に衝撃を受けた私は、ラパヌイ人にも、ウナギ(ラパヌイ語でkoreha:コレハ)を食べるか尋ねた所、ラパヌイ人は、ウナギを見つけ次第、捕獲して冷凍庫で保管し、おおよそどのラパヌイ人の家庭にも、ウナギが保存してあるとのことです。私が「ウナギを食べる、日本人はウナギが好き」、と言うと、「君は、我が心の友よ!」と言われ、ラパヌイ人の顔色がよりいっそう明るくなりました。そして、「今すぐに私の家でウナギを食べに行こう」という話になりました(※ラパヌイ人の話によると、西洋人観光客はウナギを好まないため、村のレストランにはいっさいウナギのメニューはおいていません)。以後、私はラパヌイの家庭に招かれた際に、ウナギを何度も調理したり、調理してもらったりしています。ウナギをラパヌイでは、油で揚げて食べたり、ぶつ切りにしてスープにして食べます(写真3)。


写真3 ウナギスープ


5.2. ラパヌイ人の暮らしー馬乗り、波乗り

 馬はラパヌイ人にとって、貴重な動物です。車が普及したのは、最近のことです。それまでは、ラパヌイ人の移動手段は徒歩か馬でした。今でもなお、馬に乗って散歩をすることや、馬に乗って友達の家を訪問すること、買い物へ行くことは日常です。家族に1頭は必ず馬を所有し、ラパヌイで育ったラパヌイ人なら誰でも馬に乗ることができ、そして、馬が大好きです。馬を30頭飼っている人は、「ただ馬が好きだから飼っている」と言っていました。馬乗り以外に、世代を問わず、老若男女誰もができることがほかにもあります。波乗り(サーフィン)です。小学校から、波乗りを授業で学習するそうです。私も、村の中心地から少し離れたところで、波乗りの授業をしている風景を目にしました。波は日によっては非常に高く、慣れていなければ、泳いでいても、波に簡単にさらわれてしまう程の勢いです。子どもたちは、サーフボードを持って次々と海の遠くへ進んでいきました。その海には、亀が泳いでいる事も、海岸沿いから見ることができます。


6. トロミロの木―世代を超えての自然保護への取り組み

 イースター島への入国の際の手荷物検査は厳格で、スーツケースや鞄はもちろんのこと、造花の髪飾りまでX線検査にかけられました。この島は、外来種による生態系の変化や環境破壊が著しく自然環境問題が大変深刻だからです。
 島全体の海岸沿いには美しい黄色い花を結ぶ低木エニシダ(Cytisus scoparius)で覆われています。この植物は、繁殖力が非常に高く、生態系を破壊する外来種です。道路沿いには、アフリカ大陸が原産とされる、赤い花を咲かせる落葉高木ディゴ(Erythrina variegate)が満開です。
 ポリネシア系の人々が到着するまでは、島全体がラパヌイ固有種の椰子の木(Jubaea sp. 絶滅種)で覆われていました(Hunt and Lipo 2007, Mieth and Bork 2009)。また、かつては、在来種であるトロミロ(Sophora toromiro)の樹木が生い茂っていました(Hunt 2006)。しかしながら、モアイ像の建築や運搬、燃料としての使用、家やカヌーの建築、自然への人為的介入、人口増加、過度の都市開発などが原因で森林は破壊され、現在は、島の大部分は草地や火山からの溶岩、外来植物に覆われています。
 現在は、国立森林組合が中心となって、島固有種のトロミロ(Sophora Toromiro)の保存と将来の森林回復を目標に取り組んでいます。この木は、気温の変化や害虫に弱く脆弱な植物で、かつ、大木に育つには50年以上もの年月がかかるため、長期戦です。国立森林組合はmanavai(manaは「魂、神聖な力、魔力」を意味する、vaiは「水」)という岩で囲い苗木を保護し、様々な実験でトロミロの発育を増進する方法を研究しています。子ども向けのミュージカルでは、「トロミロの木」(スペイン語:Árbol Toromiro)というトロミロの木の豊穣を願う歌があり、「トロミロの木を植えよう、島に森林を取り戻そう」と次世代の子どもに森林の大切さを伝えています。

 Voy a plantar un Toromiro, este árbol quero rescatar. Los han cortado casi todos. <中略> ¡Vamos a reforestar y al Toromiro salvar!(訳:トロミロの木を植えよう、この木を回復させよう。この木はほとんど全部伐採されてしまった。森林を回復して、トロミロの木を救う!出典:Árbol Toromiro, Fariña and Aránguiz, Radioteatro musical Infantil Rapanui.)

 歴史の中で人間の恣意的な営みと言える、自然への人為的な介入により引き起こされた森林破壊を、今、何世代もかけて、回復しようと島全体をあげて努力しています。


写真4 トロミロの木


7. ラパヌイ語の挨拶表現

 最後に、ラパヌイ語の挨拶表現(表5)を紹介します。ラパヌイ人は大変明るく陽気です。ラパヌイ語を話せば、たちまち仲良くなり、また、イースター島にはチリ人が経営している日本食レストランがあること、島に永住している日本人がいること、日本人観光客が比較的多いことから、驚くことに、ラパヌイ人の多くが、日本語の片言挨拶を知っています。本土チリの影響から、南米文化の色彩も非常に強く、道を歩けば、¡Hola amigo!(オーラ アミーゴ ※女性の場合はamiga:アミーガ)と遠くからでも手をふってくれます。

表5 ラパヌイ語の挨拶表現
日本語ラパヌイ語
こんにちは・さようならiorana(イオラナ)
ありがとう。Maururu.(マウルル)
お元気ですか?Pe he koe?(ペへコエ?)
元気です。Rivariva.(リバリバ)
まあまあです。Rakerake.(ラケラケ)
私はあなたを愛しています。He mate au kia koe.
(へ マテ アウ キア コエ)
私の名前は太郎です。To’oku iŋona ko Taro.
(トッオク イゴア コ 太郎)
私の出身は日本です。To’oku henua ko kāpone.
(トッオク ヘヌア コ カーポネ)


引用文献

《西本希呼:京都大学(2013年掲載)》