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【地球ことば村・世界言語博物館】

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世界の文字

女書(女文字)

中国の湖南省江永県を中心地として生まれ,伝えられた女文字(現地では「女書(ニューシュ)」)は,漢字を学ぶことができなかったこの地の女性たちの,自らの思いを文字で表現したいという強い要求により生まれた。この女性のみが使う文字は,1980 年代の初め頃から学界に知られるようになった。

女書は、この地の方言を表記する表音文字で文字の種類は遠藤は約 450 字,異体字の数え方の違いで、字形は全体で約 1 千字という学者もいる。その 80 % 以上が漢字と対応する。残りの 20 % 弱は,あるいは漢字を任意に改変したものか,あるいは,創作文字であろうといわれる。そして,本来の表意字形が,約 400 音節を書き表す表音節的機能を与えられている。

女文字には,もとの漢字を類推させる文字が多い。その特徴を3つあげる。1)漢字全体をそのまま借用し,形を斜めにしたもの。これらの中には,漢字の元の形と反対方向の斜めになっているもの,または,漢字を変形したあとで結合したものがある。2)漢字を少し変えたもので,見れば読めるもの。 3)漢字から借用した痕跡はあるが,変異がおおきいもの。つぎに,表音文字としての特徴として,1)女文字の造字構成部分や単字に表意機能がない,2)ある単字あるいは構成部分を音符として文字の土台を作り,そこから字群を形成するのが一般的な造字法である,3)漢字と異なり,字形と字義の間に直接の関係はない,があげられる。

文字資料

『三朝書』

文字資料には『三朝書(サンジャオシュー)』とよばれる冊子がある。『三朝書』は,結婚式の 3 日目に,結婚する娘の母・叔母・姉妹・義理の姉妹などが,別れの悲哀や結婚後の幸せを祈る歌を書いて贈る冊子である。

黄甲嶺郷鳳田村 1991

14.0 cm × 24.2 cm 右:表表紙,左:3|2 ページ。(遠藤織枝,黄雪貞)
【訳】(2 ページ)涙飄/設此高門説得下/留住在家三五年/如今他家來吩咐/連襟出郷多抵銭/只説可怜低年女/正好楼中歓的時/你嘛盲盲至三日/我嘛想來冷雪霜/勧声在他自想遠/女日休開不哭愁/人家不比娘楼坐/亦要心情待高門/己是給來錯度女/制
【日本語訳】あふれる涙/良家に嫁ぐこの日まで/実家にいること三,五年/きょう先方から迎えが来て/あなたが嫁ぐに価値がある/哀れやまだまだ若い身で/娘時代の美しい盛りに/何もわからず三朝を迎え/寂しさこらえて勤めます/くよくよせずに遠くを思い/娘の日が終わっても泣かないで/他人の家は実家と違う/心をこめて目上に仕え/間違って女に生まれてしまい/

十甲村 1997

実の妹から姉へ贈る。縦 24.7 cm,横 13.7 cm
【日本語訳】家の前で心おだやかならず/手紙を認め 会う代わりに|します/恋しいひとりの姉さんが/嫁いでますます|幸せになるよう/三日目の文を認め あなたに会います/まず|尋ねますご機嫌いかが/おととい実の姉妹のわたしたちが別れ/|ずっと泣いて憂えています/わたしはここに|意を込めて言う/とりあえずまずおめでとう/ご一家|万事調子よく/婚礼の灯りとても|華やかで/宴席囲んで賑わうことを祈ります/鳥飛び立つよう/

棠美村 1999

結交姉妹(義理の姉妹関係の契りを結んだ)のもの。右側下段の図は表紙を開けたところ。縦 22.5 cm,横 12.5 cm
【日本語訳】愁い抑えて泣きながら書き/手紙を|あなたの家に届けます/夢の中でもいつでも泣いて/あなたを思う愁うばかり/あなたは|焦っていませんか/うなだれ続けて三日間/由なく|手紙で会いに行く/書き終わらないうち日が沈み/若くてしょげるは似合わない/ただ二人が|一緒に喜べないのが悔しい/世間の事情に暗い

「女書之歌」

次は,胡慈珠(女書)と周碩沂(漢字)が共同で作った「女書之歌」の一部である。長い物語や伝記を延々と歌い継いでいくもので,日本のご詠歌に近いといえる。ことばは7文字を一まとまりとして右上からの縦書きで記す。

【日本語訳】 美文名文は世に多いが/これほど立派な文はまだ見ない/中国女性は文才があり/今も昔も勉学好きだ/女文字を手にとって細かくみると/一字一行おろそかにせずきちんとかいている/女性は役に立たないとだれかはいうが/女性は前から天の半分を支えている/封建の不合理な社会のせいで/女性は代々いじめらて苦しめられてきた… (遠藤 1996)

女書作品

中国女書書法第一人者,王澄溪(2009 年没)作。 女書 china@live

「抗日歌」

抗日歌とは,日本との戦争中に,民衆の士気を昂揚させ,戦意を高めるための,歌唱運動の間に歌われた,反戦,抗戦の歌の総称である。これらの歌には,民衆の中から生まれたものと,歌唱運動を通じて作詞作況されて広められたものとがある。歌唱運動は全国的に推進されたため,全国各地で抗日歌が作られ,歌われた。抗日歌と一口に言っても,積極的に敵と戦うという意思を示すものから,戦火で故郷と追われ,その地から望郷の思いを歌うもの,戦闘で荒れた故郷を嘆くものなど,その「抗日」の内容も一様ではない。その一つに,女文字で表記したものがある。








 







 








 






 






 







 








 






 






 







 








 






 






 







 








 






 






 







 








 







 
 






 







 








 






 






 







 








 






女文字を刻んだ太平天国「銅貨」

2000 年 3 月,『人民日報』海外版に,中国の女文字研究の第一人者である趙麗明の「女書の最も古い資料―太平天国女書銅貨」という文章が載った。私的な伝達手段の域を超えて,公的な存在である銅貨にその文字を刻んだということは,女文字の果す役割の範囲が飛躍的に拡大したということで,たいへん大きな意味をもつものと注目を集めた。

趙麗明の主要な論旨は次のとおり。1)これは,鋳造銭を作るための青銅製の型(雕母銭,母銭)である,2)正面は,楷書の漢字で太平天国の用字の習慣に習って「天国」(国の中は或ではなく王),縦に「聖寳」(寳の中は缶ではなく尓)と刻む。裏面は上下に隷書で「炎壹」(軍事組織の階級番号),右側は女書文字で「天下婦女」,左側は女書文字「姉妹一家」となっている。3)製法は精密で重々しく,国家的レベルの技術と工芸水準を使用している。

掲載後,発見された貨幣の真贋が検討された結果,上記 2)の指摘は疑いがないが,3)の説は否定的な見方が優勢であり,結論としては,この貨幣は,女文字をよく知り,太平軍の軍制にも詳しい女性が作ったものと推定されている。

ユニコード

ユニコード 10.0 では,新たに女文字が追加された(U+1B170.. U+1B2FF)。Nushu 拡大図

関連サイト

[最終更新 2017/11/20]