nƂΑ
言語学者・文化人類学者などの専門家と、「ことば」に関心を持つ一般市民が「ことば」に関する情報を発信!
j[
悤

【地球ことば村・世界言語博物館】

NPO(特定非営利活動)法人
〒153-0043
東京都目黒区東山2-9-24-5F

http://chikyukotobamura.org
info@chikyukotobamura.org

世界の文字

線文字B 英 Linear B


アルファベットが使用される以前,紀元前 2 千年紀のエーゲ世界で行なわれていたミノア文字の一形態。線文字Bという名称は,この文字の発見者であるイギリスの考古学者アーサー・エヴァンズ (Arthur J. Evans) によって名づけられた。別に「ミュケナイ文字 Mycenaean script」と呼ばれることもある。この文字の使用された年代は,クレタでは「後期ミノア II から IIIb,ギリシア本土では「後期ヘラディク III」の時代で,大体紀元前 1450 年から前 1200 年,いわゆる「ミュケナイ時代」の中期以降に相当する [1]

これまでに発見された線文字Bの資料は,この時期の王宮の文書庫に所属する財政関係の粘土板文書が主たるもので,その主な出土地は,クレタ島のクノソス (Knossos),ギリシア本土のミュケナイ (Mycenae) およびピュロス (Pylos) のそれぞれの宮殿跡である [1] これらの粘土板はいずれも,それぞれの王宮が破壊されたときの火災によって素焼きの状態となったために,たまたま破損を免れて後世まで残存したものである [2]

残存資料から判断する限り,線文字Bはミュケナイ時代の王宮の限られた書記たちの間で,もっぱら王宮の経理・行政上の記録のために用いられ,それ以外の,たとえば個人的な書簡,年代記その他の歴史的記録,あるいは宗教や文学作品などの用に供された形跡はまったくない。このように,文字の使用者と用途がきわめて限られていたという点で,線文字Bは,古代オリエントの楔形文字や,また直接の源となった線文字Aとも性格を異にしている [2]

文字構成

線文字Bは大別すると音節文字と表意文字の 2 種類からなっている [3]

音節文字.

音節文字は,ちょうど日本語の仮名と同じように,基本的には「子音+母音 (CV)」という単純開音節構造をなしている。文字は,表記上なくてはならない基本的な文字と,ときたま随意的に用いられる,いわば補足文字の 2 種類に分けることができる。補足文字は,ギリシア語を表記するにはきわめて不正確な線文字Bの不足をいくらかでも補うという役割を果たすものである [4]

表意文字

線文字Bの表意文字は,厳密にいうと,a) 本来的な表意文字,b) 度量衡文字,c) 数字の 3 種類に分けられる [5]

線文字Bの表意文字は,音節文字で綴られた通常の語とは決して同列に扱われず,常に数字を伴っていわば助数詞的な役割を果たすだけであり,しかも,具体的な事物を象徴的に表す文字に限られるという点で,線文字Bは,同じような音節文字と表意文字を備えた古代オリエントの楔形文字や,また日本語の仮名・漢字の併用体系とは異なっている。線文字Bは文字体系としては基本的に音節文字であり,表意文字は周辺的・補助的な役割を果たすにすぎないといえる [5]

度量衡文字

線文字Bの度量衡は,小さな単位から大きな単位へ段階的に移行するシステムである。これはたとえば日本の古い尺貫法で,米や酒の容積を表すのに,小さいほうから,勺,合,升,斗,石のように表されるのと同類である。このような度量衡文字には,青銅や金などの重さを表す「重量,穀物など固体の容量を表す「乾量,葡萄酒などを量る「液量」の3種類があり,重量には 5 段階,乾量と液量には 4 段階の単位が区別される [6]

テキスト

線文字AとBの違いの一つが,粘土板における書法の外面的な形式に関わるもので,線文字Bの文書の書き方は,線文字Aのそれに比べ,はるかに体裁が整っている。ページ型のテキストでは,行ごとにあらかじめ引かれた横線に沿って文字が書かれ,また,語と語の間は短い縦線で区切られ,しかも,同じ語が違った行に分かれて書かれることもない [6]

サンプルテキスト

粘土板 (PY Ub 1318) [Sharon Mollerus / CC BY 2.0 / 出典]

粘土板 [不明 / CC BY 2.5 / 出典]

ユニコード

線文字Bの音節文字と表意文字のユニコードでの収録位置は U+10000..U+1005F とU+10080..U+100FF である。

Linear B Syllabary

Linear B Ideograms

関連リンク・参考文献

[最終更新 2021/11/10]