地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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世界の文字

書写材料

アマテ(樹皮紙 2)


アマテ(スペイン語 amate,ナワトル語 āmatl)とは,プレヒスパニック時代にメキシコでイチジク科の樹木の皮を用いて製造された紙の一種であり,アステカ帝国間との通信,記録,儀式に用いるために広く生産された。紀元 6~8 世紀頃のマヤではピラミッド型建造物,ゼロの概念に基づく二十進法,暦の使用,交易や貢物に関する記録の作成,王国の会計システムなど膨大な記録の保持が発達してきた。紀元前 3 世紀頃から 12 世紀頃まで強い影響力を保持したマヤ,そして 13 世紀頃から 16 世紀のスペイン人侵略まで帝国を保持したアステカ,これらの国では,様々な重要な出来事を樹皮紙―アマテの文書に書き残し,王の図書館に溢れるように保管していた。→ 坂本(2008)図はアマテ樹 Wikipedia Amate

しかし,スペイン帝国征服(1521)後には一切の生産が禁じられ,ヨーロッパ式の紙に置き換わったと思われていたが,1900 年民族学者フレデリック・スターの調査行の際に,メキシコ北西部の辺鄙なオトミ族(Otomi)の集落において,マヤやアステカの遺跡から見つかっているような道具を使って,樹皮紙を作っている人々に出会った。マヤ,アステカの樹皮紙は,古代から受け継がれていた。山岳部でシャーマンにより「魔術的な」効果の紙としてアマテ紙の生産が行われていた(坂本 2008)。アマテ樹皮紙は,日本の「壇紙」の風合い,温もりのある肌触りを持つものであった(樹皮紙Beaten Bark Paper 紀行 ⑦)。 図は,アマテ樹皮に書かれたアステカの文章(1550 年頃)。→ Hagen

樹皮紙の起源

メソ・アメリカ地域でいつごろから樹皮紙製作が始まったか,その起源はどこだったか,という点については不明である。石碑や絵文書の研究から垣間見えてきたことは,マヤの先古典期後期(紀元前 400~紀元後 300 年頃)かそれ以前には樹皮紙生産が始まり,儀式やまじない,絵文書などに使われてきた可能性がある。図は,当時行われていた「放血儀礼」と呼ばれる自己犠牲の場面のレリーフである。→ 坂本(2008)

この石彫には,ヤシュン・バラム(鳥=ジャガー)4 世が自らの性器を傷つけ,その向かいでイシュ・ムットゥ・バラム王妃が舌に孔を開けてロープを通している姿が描かれている。この儀礼はヤシュン・バラム 4 世に,王位を継承する息子が誕生したことを祝うものであった。王や妃が流した血液は,樹皮紙に染み込ませて燃やした,血液は煙となって,神々の元へ届けられたのである。→ 横山玲子

製法

イチジク科の樹木の皮はかなり大きく削ぐことができ,A2 サイズぐらいの大きさは普通に採れるという → 片野孝志。イチジクの樹皮を水に漬けて外皮をとり除き,熱湯で煮沸する。中心部が柔らかくなったところで引揚げ平滑な板の上においてビーターと呼ばれる小さなハンマーのような道具で打ち叩き延ばし,時間をかけて均一な薄いシート(紙・布)に仕上げていく。

ビーター

ビーターは,樹皮を打ち叩き延ばし,広げて薄く均質な樹皮シートを製作するための道具で,さらに,造形的な透かし模様(water-mark)を入れる用途にも使用される。右図のものは,メソ・アメリカで見つかった,棒状で,バトン型の細長い形をし,叩く面に多数の細い溝が平行あるいは格子状に刻まれている。


図右は,メキシコの遺跡から見つかった「マヤ絵文字が刻まれた石器ビーター」で,全体の 1/6 程が欠損しているが,全体のサイズは 12.5 cm × 7.2 cm である。杷手を固定する溝が周囲に刻まれている。片面の絵文字からは,マヤの「盾ジャガー三世(769~800 年頃在位)」の捕虜に関する言葉が記されているという。→ 坂本(2013)

このようなビーターは,太平洋をまたぐスラウェシなど東南アジアでも使われており,樹皮布/樹皮紙に用いられる「透かし模様」という非常に高度で珍しい発想と技術と,酷似するラケット型石器ビーターが「なぜ太平洋をまたぐ双方でに存在するのか」という問題は解明されていない。→ 坂本(2008)

焚書

1549 年にユカタンにやってきたディエゴ・デ・ランダは,フランシスコ派の修道士として,イヤマルに修道院を建てたが,1561 年にユカタンの管区長になると,早速過酷な宗教裁判を行った。特に翌年のマニ町で行われたそれは熾烈を極め,当時の記録によると 4,549 人の男女が拷問を受け,それがもとで死んだ者 157 人,そのほか罰金刑や鞭打刑を受けた者 6,330 人という有様であった。また,マニの教会前の大広場で,大破壊が行われ,偶像,大祭壇,小石造物が壊されたと記録に見える。ランダは,また,「マニの焚書」では,27 巻(実際は壊滅的とも言える量であった)の鹿皮装の絵文書が燃やされたとの記録も残っている。→ ランダ

絵文書

マニの焚書により現在,世界に残るマヤ時代の文書は 4 冊しかない。それらはドレスデン絵文書,パリ絵文書,マドリッド絵文書,グロシア絵文書と名づけられている。

ドレスデン絵文書

ADEVA
『ドレスデン絵文書』は後古典期が頂点に達した 1200~1250 年頃に書かれており,現存する 4 つの絵文書のなかで最古のものと考えられている。素材は野生のイチジクの樹皮を用いたもの(アマテ)で,アコーディオンの蛇腹折りのように 78 面に折りたたまれた長さ 358 cm のこの文書は,ほぼ全面が文字で埋められ,豊かな色彩の絵で装飾ている。表紙は堅い板や獣皮ではさまれていた。文書はマヤ人の知識を理解する上で,きわめて重要な天文暦と星占いの暦を採録したもので,金星の食と周期を描いた絵文書の表は,高度な科学知識をうかがわせる。→ マリア・ロンゲーナ,下図 Codex Dresdensis


パリ絵文書

ADEVA
『パリ絵文書』(別称『ペレシアヌス絵文書』)は,11 頁に折られた断片しか残っていない。これは,『ドレスデン絵文書』よりわずかに新しい年代に書かれたものとされる。文書は大部分が,11 カトゥン分の暦(カトゥンは長期暦の時の単位で,1 カトゥンは約 20 年)を記したもので,彩色した図で神々が描かれ,文字は予言や神聖な儀式を説明している。この絵文書にはコロンブス到来以降に書かれたラテン語の注釈がつけられている。→ マリア・ロンゲーナ → 図右 Der Pariser Kodex,図右Codex Peresianus

マドリード絵文書

ADEVA
『マドリード絵文書』(別称『トロ=コルテシアノ絵文書』,竜舌蘭マゲイ (maguey) 繊維が使用されている)は,別の時期にスペインの 2 つの場所で発見された 2 つの断片からなる。最初に,この 2 つが同じ写本の断片であると気づいたのはレオン・ロニという研究者であった。2 つの断片の文書は,1300~1400 年に書かれた 56 ページの文書を構成している。この絵文書はほかの 3 点とは違って,天文や暦法を詳しく述べていない。日常活動に関する暦や予言を内容とし,初期の絵文書にくらべて科学知識のレベルはわずかに低い。→ マリア・ロンゲーナ → FAMSI Codex Tro-Cortesianus (Codex Madrid)

グロリア絵文書

この絵文書は,20 世紀半ばにメキシコのチアバス州の洞窟で発見された。現存するのは 10 ページの断片であり,最大の高さが 18 cm,各ページの平均幅は 12.5 cm である。内容は,金星の運行表である。『ドレスデン絵文書』は明けの明星としての側面を強調しているの対して,『グロリア絵文書』は明けの明星として見える時期,太陽に対して地球の反対側に一直線に並ぶ外合で見えなくなる時期,宵の明星として見える時期,太陽と地球の間にあって一直線上に並ぶ内合で見えなくなる時期という計 584 日における 4 つの時期の金星を等しく扱っているのが特徴といえる。人物像などの図像は,マヤ文明の美術様式に西のメキシコ高原の様式が混合している。→ 青山,下図 The Grolier Codex | The Grolier Club, New York The Grolier Codes

ハークネス・コレクション絵文書

Huexotzinco Codexという文書は,スペイン人征服者ヘルナンド・コルテス(1485~1547)に関わる文書群の一冊で,スペイン征服直後のメキシコおよびペルーについての報告書として 1531 年に作成された。この書は,アメリカの慈善家 E・S・ハークネスによって米国議会図書館に寄付されたことからハークネスコレクションと呼ばれる。この冊子の中に 8 枚の樹皮紙を用いた絵文書が綴じられていた。サイズは 23.0 × 44.0 cm から 41.2 × 51.6 cm の大きさであった。また,繊維組成分析により,4 枚がアマテ繊維(ビーターの筋目跡模様あり),残りの 4 枚がマゲイ繊維(ビーターの筋目跡模様なし)から作られた樹皮紙とされた。→ 坂本(2009),→ Wikipedia Huexotzinco Codex

修復前の冊子 →Sylvia Rodgers Slbro Harkness 1531 Huejotzingo codex (修復処理後,8 枚の絵文書は冊子から別置されている。 → Public domain review: Huexotzinco Codex (1531)

アマテ繊維
マゲイ繊維

関連リンク・参考文献

[最終更新 2019/01/20]