地球ことば村
言語学者・文化人類学者などの専門家と、「ことば」に関心を持つ一般市民が「ことば」に関する情報を発信!
メニュー
ようこそ

【地球ことば村・世界言語博物館】

NPO(特定非営利活動)法人
〒153-0043
東京都目黒区東山2-9-24-5F

http://chikyukotobamura.org
info@chikyukotobamura.org


世界の文字

書写材料

ダルワン(樹皮紙 3)


インドネシアにおいては,カジノキ(梶の木,学名:Broussonetia papyrifera)の樹皮から作られたダルワン樹皮紙(Daluwang,バリ島ではウランタガ Ulantaga,スラウェシ島ではフヤ Fuya)を 1960 年代まで使用する伝統が残っていた。カジノキは,クワ科コウゾ属の落葉高木で,中部日本以南,東アジアから南アジア,太平洋諸島の暖地の山野に広くはえるが,古くから栽培され野生化もしているので,正確な原産地はわからない。最近の研究では,台湾から南下した新石器時代のオーストロネシア語族とよばれる古代人が,フィリピンの島々を通り,インドネシアのスラウェシ島北部やジャワ島に渡り,携えてきたカジノキなどを植え,定住地を築いていったと考えられている。→ 坂本 2008

ジャワのヒンドゥー王朝時代に,樹皮紙(布)はかなり生産されていたと推定され,ワヤン・ベベール(後述)の素材や儀式的用途(死者を包むカジャン),宗教カレンダー(バリ島,下図 → 坂本 2009 )などに使われたと見られるが,これまでのヒンドゥー教研究者は,ヤシの葉を使ったロンタール(貝葉)文書がヒンドゥー教文化の中で唯一使われた記録用媒体であったとした。しかし,考古遺物からみると 13~15 世紀に東ジャワで栄えたマジャパイト期の遺跡から樹皮紙を製造するさいに用いる道具(ビーター)が出土しており,今後調査する必要があるだろう。→ 坂本 2011

16 世紀からイスラム化が進んだが,イスラム教徒は,アラビア文字をロンタールに記すのは実用的でないため,コーランなどの資料は樹皮紙を用いていた。インドネシア国立図書館には 100 冊以上のダルワン本が保存されている。また,オランダのライデン大学図書館には,16 世紀後半にジャワのセダユに上陸したオランダ人航海者によて収集されたジャワ語文献で,イスラム九聖人のひとりであるスナン・ボナンによって東ジャワのトッパンで書かれたとされる文書など 50 点ほどのダルワン資料が保存されている。→ 坂本 2008→ Kertas Daluwang

ダルワン樹皮紙の製造工程

製造工程の概略はつぎのとおりである。(1)切り取ったカジノキの幹から樹皮を開き剥がす(図左上)。(2)剥いだカジノキの樹皮を紙の仕上がりサイズを想定して 40 cm ほどの長さに切り揃え,表面の黒皮を削り剥ぐ。(3)ジャックフルーツの木の台の上で,斜めの筋がついた金属の叩き具(図左下)で,剥いだ樹皮を水に濡らして均等に叩き延ばしていく(図右)。(3)それを 3 枚重ねにし,金属の叩き具で想定した紙のサイズに広げ一体化していく。(4)一旦乾燥させ,その後水に漬けて,カジノキから出てくる糊分で叩き広げた紙の表面が非常に滑らかになり一枚の紙の状態に変化してくる。(5)乾燥工程を経て,しなやかで紙同様のダルワン紙が完成する。多くの場合,仕上げ段階で表面を砧打ちし,椿のような厚手の葉っぱや艶のある宝貝でこすって平滑にしたり艶出しを行って,書写素材とした。→ 坂本 2000

ワヤン・ベベール

現在,2 セットしかインドネシアに残っていないジャワの伝統影絵劇ワヤン・ベベール(Wayang Beber:絵巻物)は,800 年ほど前のヒンドゥー王朝時代に始まったとされ,いずれも樹皮紙の上に描かれていた。ワヤン・ベベールは,幅 80 cm,長さ 4 m ほどだが,継ぎ目が一切見当たらず,全面が手が透けるほどの均質な薄さの巻物状であり,見事な彩色の絵物語が描かれている。→ 坂本 2011,→ Kant-Achilles

南ジャワのパチタン地方のグドムポル村に伝わる「スカル・タジとパンジの結婚」物語は,15 世紀に創作され,マレーシア,カンボジアにも広がった。物語は,クディリ王国のブラウィジョヨ王の娘スカル・タジとジェンガラ王国のパンジ王子との恋物語であり,そのなかでいろいろな冒険譚が挿入されている。物語の骨子は 1 人の姫にたくさんの求婚者が現われ,姫は逃げ出してしまう。すると姫を探し出した者に姫を与えるということから競技や戦いがはじまり,勝ち残った者が姫と結婚できるという求婚譚物語である。この物語は 6 巻からなり,それぞれの巻には 4 つの絵図が描かれている。巻 1・4 場は,主人公パンジと王女が市場で出会う場面である。→ 宮尾

1 クラントンの謁見室2 山中にて
3 カラミサニ宮殿4 パル・アムバの市場

上演する場合は,1 m ほどずつ巻き広げながら物語の場面が変わるとまた 1 m ほどずつ巻き送られていく。この巻き取る 2 本の棒を持ち,順繰りに巻き送っていく作業は「ダラン」と呼ばる語り手が行う。ダランは物語の筋を朗々と唄しながら感情を込めて語る。しかし上演は基本的な筋以外はすべてダランの語りに任されている。上演は,新築,出産のお祝いや特別の祈願成就のために依頼主が頼み執り行われる。ワヤン・ベベールではグランの語りに合わせて少人数でガムランが演奏される。

関連リンク・参考文献

[最終更新 2019/01/20]