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【地球ことば村・世界言語博物館】

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世界の文字

ミシュテカ文字


メソアメリカの編年後古典期(900~1500)から征服期にかけて,メキシコ南西部のミシュテカ地域で独特の絵文書が作られた。これらは,ティラントンゴ(Tilantongo)やテオサクァルコ(Teozacualco)などの王国を支配する支配者層の歴史的な記録である。これらの絵文書は,文を表音的に表記するのではなく,イメージによって直接情報を伝える独特な書記体系であり,絵画表現の基本要素は様式化している。その慣用表現は,ミシュテカ語やミシュテカ語が話される地域の風物や文化に強く根ざしたもおである。(→ 八杉)

ミシュテカ文字は,隣接のプエブラ州やラスカラ州のスペイン人征服前の文字,とくに先住のサポテカ文字と関連を持つが,その起源は不明である。ミシュテカ語とサポテカ語は同じオトマンゲ語族に属するので,何らかの言語的関係があったと考えられる。したがって,文字にも関連があったと思われる。しかし,ミシュテカ文字は独特の特徴をもち,のちのアステカ文字にはとくに大きな影響を与えている。アステカ帝国の覇権の反映から,現在も,このミシュテカ語圏の地名はアステカの言語ナワトル語で表示される。(→ 植田)

ミシュテカ文字は,主に人名・地名だけを記録しているので,限定的または部分的文字体系といわれ,絵文字の段階にとどまり,それ以上に発展しなかった。すなわち,文字学上,初期あるいは形成段階の文字である。表語文字がその中心であって,表音的な原則もある程度ミシュテカの絵文書に導入されてはいるが,ごく初歩的な段階にすぎなかった。この文化の特徴の1つは,スペイン人征服前に作られた絵文書がかなり現存していることで,メソアメリカの絵文書作成伝統の中でも最も重要な地域であった。

文字資料

絵文書は歴史的な記述が主であるが,宗教・儀式的な記録もある。供物を捧げたり,流血儀式なども記されている。新年の新しい灯りをともす儀式や神話なども扱われている。場面は水平または垂直線で分けられ,右から左,上から下または下から上に牛耕式に読まれる。(→ 八杉)

ミシュテカの絵文字 I
ミシュテカの絵文字 II
1028~1048 年までの支配者の人生と歴史 (→ フィッシャー)

ミシュテカの書記体系は,大きく分けて,暦,場所,人の 3 つの要素からなる。暦は,時間の流れを示すためや占いをするため,生まれた日の名をつけるためなどに用いられるが,最も大切なのは日付を示すためである。日付は,日と年で示される。日は 260 日暦による。年は,1 年 365 日の新年の日に当たる 260 日暦の文字と年の文字の組み合わせで示される。ミシュテカの場合は,年を表す 4 つの日は「家」「兎」「葦」「火打ち石」であった。(→ 植田)

場所を表す文字は,山(yucu)や川(yuta)や平地または谷(yodzo)などの場所の一般的な特徴を表す文字に,色や動植物,構造物など,特定の場所を示すための特徴的要素を加えて示される。下図は,羽を持つ手の川(yuta tnoho)は,地名アポラを表した。花の祭壇(chiyo yuhu)は,サンタ・マリア・スチシュトランである。図は,「〈9 の兎〉の〈5 の風〉の日に♂ 5 風と♀ 9 ワニの結婚。アポラにて。」を表す。(→ 八杉)

♂ 5 風と♀ 9 ワニの結婚

歴史文書に登場する人物は支配者層である。男女は服装で区別が可能であり,それぞれの人物には,暦名が人物像の近くに付けられている。暦名とは,260 日暦の日の名前で,生まれた日に因んでつけられた名である。さらに,これとは別に,個人名が服装やかぶりものなどで表される。男性名は,一般にジャガーや鷲など勇敢な動物名や,太陽や雨,火の蛇などの神的な名などがつけられている。女性名はケツァル鳥や蝶,翡翠,花などの美しいものや価値のあるものに由来する。

実在の人物で最も詳しく述べられているのは「8 の鹿―虎の爪」王であって,ミシュテカで最も偉大な人物であった。彼は,高地のティラントンゴおよび海岸地区のトゥトゥテペックの第 2 王朝の 2 番目の王であって,その生没年は,ラビン(Emily Rabin)によると 1063~1115 年である。「8 の鹿」王は 75 から 100 の町を征服したとされ,5回 結婚して 11 人の子孫を残したが,1115 年にいけにえにされた。下図:左が「8 の鹿―虎の爪」王。右が最初の妻「13 の蛇―花の蛇」。両者の結婚のシーン。西暦 1103 年,王が 40 歳の時とされる。(→ 植田)

「8 の鹿―ジャガーの爪」王

暦の日付の文字

暦の文字でミシュテカに特徴的なのは,年を表す記号であって,アルファベットの大文字の A と O に似た記号の絡み合った表示方法である。マヤ文字やアステカ文字の場合と同様「年の運び手」と名づけられた機能を持つ 4 つの記号の 1 つが,この A-O 記号についていて,それに係数がつく。この 4 つとは「家」「兎」「葦」「フリントナイフ」であって,アステカ文字と同じく 52 年周期を作る。この A-O 記号は,メソアメリカの多くの地域の彫像に現われているが,絵文書にでているのはミシュテカの場合だけである。A は太陽の光線を表し,O はロープで,太陽の光線を結ぶとされる。a は「4 の家」の年,b は「8 の家」の年,c は〈5 の家」の年,d は「7 のフリント」の年。(→ 植田)

年の記号

関連リンク

[最終更新 2016/12/20]