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【地球ことば村・世界言語博物館】

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世界の文字

アステカ文字


アステカとは,この民族の発祥の地とされたアストラン(Aztlan)の民という意味で,もともとはメキシコ渓谷やテノチティトラン(Tenochtitlán)の住民のことを指した呼称である。植民期初期には,この地は México-Tenochtitlán といわれたが,1545 年までには México と簡略形が使われるようになった。また,メシーカ(Mexica)ともいわれるが,この方は,彼らの主神メシトリ神(Mextli または Mixtli)= ウイツィロポチト神(Huitzilopochtli)の民を意味する言葉で,アステカと同種の意味で使われている。したがって,アステカ文字(Aztec writing,escritura azeca)はメシーカの文字(escritura mexica)ともいわれる。(→ 植田)(→ 右図 Aztec Sun Stone Replica

メソアメリカの文字の最後を飾るのがアステカ文字である(西暦 1100 年以降)。メソアメリカの文字の中で,言語と文字の関係が最もよく分かっている文字である。アステカ文字の言語はナワトル語である。サポテカやミシュテカなどの声調言語であるオトマンゲ語族と異なり,抱合言語である。そのため同音異義語が少なく,漢字の形成原理でいう仮借の利用ができにくい言語である。文字は表語文字と表音文字の混合体系であるが,語は表音文字による文字の組合せで表わされるものが多い。(→ 八杉)

テキストが扱っている内容は,歴史,宗教,行政の 3 つに分けることが可能である。ミシュテカの絵文書と同じように,基本的には,慣用化した絵で大筋の内容を表わし,人名,地名,時が文字によって表わされる。人や場所の名を表わす文字は,必然的に表音表記によることが多いが,その書き方は自由度が大きく,書き順は,下から上,右から左など,一定ではない。暦の文字は,ミシュテカの絵文書に用いられたものとほとんど変わらない。メキシコ中央高原で言語が異なっても利用された表意文字であるが,しかし,言語ごとに読み方は一定で語を表わすものであるから,正確には表語文字といった方がよい。

文字組織

他のメソアメリカの文字体系と同じく,アステカ文字も絵文字,表語(表意)文字,表音文字などの要素を含む混合体系であった。それぞれの記号のタイプや要素の割合は,時代によって変わっているが,絵文字が最も多い。

数詞

1 から 19 までは丸い点や指の形,斜線で表わした。数の計算は 20 進法によっていたから,20,400,8000 の数を表わす各々の文字をもっていた。20 は cempoalli (「計算」)といい,パントリ (pantli「旗」)の文字で表わした。400 は,松の木に似たツォントリ(tzontli「逆立った頭髪」)の文字を使い,8000 は「コパル樹脂またはカカオ豆をいれた袋」を意味するシキピリ(xiquipilli)」の文字で表わした。

数字

「太陽の石」にある暦の年数と記号
アステカの暦には,シウポワリ(xiuhpohualli「年の計算」)またはシウイトル(xihuitl)と呼ぶ太陽暦と,トナルポワリ(tonalpohualli「日の計算」)と呼ぶ祭式暦があって,前者は 20 日ずつの 18 か月とネモンエミ(nemontemi) と呼ぶ 5 日を加えて構成され,後者は 1 から 13 までの数と 20 日の記号からなる。この方式は,マヤ暦の場合と同じである。

月の名称は,第 1 の月名アトルカワロ(atlcahualo)またはアテカワロ(atecahuallo)で始まり,第 18 の月名イスカリ(izcalli)で終わる。日の名称は,シパクトリ(cipactli「鰐」)に始まり,ショチトル(xochitl 「花」)に至る20の記号がある。右図は,「太陽の石」に見られる,暦の日数を表わす記号である。

絵文字または象形文字

絵文字
絵文字には,対象そのものや行動を図形化した例,2 つ以上の図形素を組み合わせてなる例などがある。右図は,対象そのものを図形化した文字の例:家(calli 図 a),山(tepetl 図 b)。

絵による表示は,明確な事物に限定されているので,一般的な呼称や総称を表わすことはできない。たとえば,「人間」を表わすことは困難であるし,また,鳥(図 f)と鳩(図 g)を弁別するのは,難しく,また紛らわしい。さらに,動作や過程を述べる動詞の場合,たとえば「食べる」(図 c)を表わすのにあごの図で示したり,飛ぶ鳥の絵で「飛ぶ」(図 d)を表わしたr,「川を渡る」(図 e)は足跡によって,つまり,行為の結果を描くことによって示すほかない。いわば,隠喩的表示方法である。また,描かれる対象の持つ属性は 1 つだけではないから,物の選択や取捨はアステカ文化の範疇で表現され,絵文字は容易に表意文字になってくる。たとえは,矢と楯で「戦争」(図 h)を表わしたりする。


地名文字
しかし,絵文字の大部分は,地名・人名,暦の日付,量的な実体を表わす文字で,「メンドサ文書」には 918 の絵文字があり,マカサガ・オルドーニョ(César Macazaga Ordoño)の「地名辞典」には 1460 の地名がある。地名を表わす絵文字について「ディソクの石」(左)と「メンドサ文書」(右)にあげてあるものを示す。

図 a) matlatl(網)+ tzintli(人間の下肢)+ co(地名を表わす接尾辞)= Matlatzinco(ティソクの文字には tzinvo は出ていない) 図 b) tochtli(兎)+ pantli(旗)= Tochpan(ティソクの文字には旗は描かれていない)  図 c) tlatelli(大地の堆積)+ ololtic(丸い形)= Tateloloco(ティソクの文字には co は描かれていない) 図 d) coltic(曲がった)+ hua(小辞)+ can(地名を表わす接尾辞)= Colluacán(ティソクも文字には huacan は表わされていない)

メシーカの王(トラトアーニ)は「言葉を発すす者」の意味であるが,初代から 11 代まで続いた。文字は → 「フィレンツェ文書」による。初代の王はアカマピチトリ(Acamapichtli)で,3 本の葦(acatl)を手で握って(mapichtli)いる文字で表わし,「一握りの葦」の意である。

メシーカ王の文字『フィレンツェ文書』

表語(表意)文字

表語文字は,描かれた物に結びついた特質・特性・観念を表わすが,その表示の方法は,その文字の書き手の慣習的・伝統的な思考法を反映している。そしてその背景には,その民族独特の文化がある。しあがって,アステカの表語文字を理解するには,アステカ文化の十分な知識が前提となる。

チマル(chimal)の文字
表示方法は様々であり,独特な表示方法が多い。「楯」を意味するチマル(chimal)には,3 種の形態の異なる楯の図がある。


ayac yxochiuhの文字
「彼にあげる花がない」を意味する人名 ayac yxochiuh は,1 つは花(xochitl)の図で表わすが,もう 1 つは,何も持っていない空っぽの手に,ダッシュの記号をつけて否定の意味を表現し,花はまったく表示しないといった表示方法がある。

「ティソクの石」の表語文字の例
右図は,「ティソクの石」にある表語文字の例である。Ahuilizapan という地名文字は,水のいっぱい入った運河で泳ぐ人間を描いている。泳ぎ手が腕を上げているのは,あきらかに「上機嫌」まあは「陽気に騒ぐ」を示す表語文字として使われている。Teotitlán の例は,太陽の円盤は太陽神 Tonatiuh を暗示し,語彙の拡充によて,神すなわち teotl を加えている。したがって,この場合,太陽の円盤は一般駅に「神」の表語文字としての役をしている。太陽の円盤の下に丘の記号があり,この丘は「…のいる所」を意味する。したがって,Teotitlan(神のいる所)は太陽の円盤=神+丘で,この 2 つの表語文字が結びついたものである。

表音文字

表音文字は,表わされたものの観念を伝えるのではなく,それが表わす音価を伝える。しかし,ある文字が表語文字か表音文字かを区別する仕方はなく,文字を見ただけで決定できる方法はない,同じ文字が観念を表わせば表語文字であるし,音を表わすなら表音文字となる。

木片(quahuitl)の文字
表音文字は表語文字とは独立して,または,それに付加して使うことができた。アステカの表音文字は,常に,書かれる言葉の同音異義語が使われて,この同音異義語は表語的に書かれるのである。右図は木片(quahuitl)を表わしているが,さらに,そこにこの語とほんど同音に近い鷲(quauhtli)を配して,その音を強調している。

アコルワカン(Acolhuqdqn)の文字
表音文字の始まりとともに音節文字へと発展するのであるが,スペイン人征服以前にすでにかなり表音的傾向が進んでいた。たとえば,「ティソクの石」にある Acolhuacan {アコルワ人の場所」には,表音的要素として atl(水)が a という音価を与えるために使われている。初めの音節が肩(acolli)であって,腕や手(maitl)ではないことを示したかったのである。さらに,atl によって曖昧さをなくして意味を明確にしている,

Tlalchichtliの文字
上記の例に関連するのは「限定詞」であって,ある文字で 2 通りの解釈が可能な場合,限定詞でそのどちらかを指示するのである。右図の文字は,歯(tlantli)と土地(tlalli)とミミズク(chichtli)よりなるが,土地は milli でも表わされるから,tlalli と milli のうち,tla を語頭にもつ tlalli を指示するため tlantli が表記されていて,この歯の文字素が限定詞の働きをしている。この限定詞の存在は,文字発展段階の過程を示していると考えられ,絵文字から表音文字への方向を暗示している。

文字資料

ヌッタールの絵文書

ミステカ地方の王統記の一部で,物語は右下から左上へとつづく。「6 ・石刀」の年(992 年)に,ティラントンゴという町(右下の神殿がその絵文字)で「5 ・わに」(男)と「11 ・わし」(女)の結婚があった。2 人の男と1 人の女が生まれたが,「5 ・わに」は「11 ・水」(女)という 2 番めの妻をめとる。人物名は生まれた日のサインで示されている。(→ 小林)


移民の記録

左方に荷物や子供を背負った 4 人の人物が見られる。かれらは移住してゆく 4 部族を表わしている。部族名はそれぞれ頭上に描かれている。点々とつらなる足跡は移民の進路をあらわしている。かれらは折れた木と祭壇で示されている地点(アステカ語で Tamoanchan とよばれた地点)に達し,ここでいままで親しくしてきた 8 部族と会う。

右下の 2 つの円陣は,去る部族,送る部族が一緒になって宴会と儀式を行ったことを示している。円陣の上部で相対している 2 人の人物は,去る部族,送る部族を代表している族長たちで,右側の族長の目と耳をつなく 2 本の線は,かれが涙を流していることを示している。その上の横に並んだ 8 個の記号は,送っている 8 部族をあらわしている。8 個の記号に共通している方形の部分は,「家」の形で,部族を示し,その下にそれぞれ部族名が記されている。右から 5 つ目の部族名の上に見える小円は星で,儀式が夜におこなわれたことを示している。右上の 3 個の足跡は,このような儀式と宴会ののち 4 部族が移住地にむかって出発したことを示している。(→ 加藤)


1426~27 年の事件の描写

暴君 Maxtlaton (c) は,Chimalpopoca (a) を殺害 (b) したあと,Tlatclolco (f) の領主 Tlacateotzin (e) の生命を奪う (g) ように命令を下した (d)。そうすれば, Tenochca 族 (i) も,Acolhus 族 (h) も両王家の領主が不在となり,すべてが,Tepaneca 族 (k) の王家の支配下に入るであろう。(→ 小林)

聖暦

次の図は,ある聖暦の一部分である。図の上と下を除いた中央の 5 列が,暦である。各ますめに暦日を示すサイン(右側)と「9 つの夜の領主」(左側)が描かれている。左下すみが「第 1 週の「1 ・わに」の日で,火神と一緒に描かれている。それより右側につづくのが,第 1 週の 13 日である。その上の列は第 5 週,つづいて第 9,13,17 週となっている。縦の第 1 行(左端)にある暦日のサイン,わに,あし,へび,地震,水は東に属している。第 2 行は北,第 3 行は西,第 4 行は南に属するサインである。第 5 行はまた東になる。(→ 小林)


フェフェルバリィの絵文書

この図は聖暦であると同時に,アステカ族のもっていた世界像を示す。4 方向(東西南北)のそれぞれにひとつの色,ふたつの神,5 つの暦日のサインが対応していた。中央には火神がおかれている。(→ 小林)

関連リンク・文献

[最終更新 2017/01/20]