地球ことば村
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世界の文字

デーヴァナーガリー文字

ブラーフミー文字の系統に属する音節文字。デーヴァナーガリー文字はその代表的なものであるが,現代のヒンディー,ネパール,マイティリー,ラージャスターニーなど,多くの言語が,この系統の文字を使用している。6世紀頃に成立し北インドに広く普及したシッダマートリカー文字は,我が国にも仏教の伝来とともに知られるようになったが(悉曇文字),ナーガリー文字(ナガラ (サンスクリット: नगर) つまり「都市の文字」という意)はこれを基に工夫されたものである。

ナーガリー文字では,シッダマートリカー文字の持つ楔形の部分が横の線になってくる。また,右側の線も直線化して,右の下に尾のようなものが見られる。この書体はかなり整った形を示し,装飾的な要素がなくなっている。10世紀頃,これがすべての字についてさらに明確な字体にまとめられたのが,デーヴァ(サンスクリット: देव = 神)ナーガリー文字である。【出典】風間喜代三(2001)「デーヴァナーガリー文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)

ブラーフミー・シッダマートリカー・デーヴァナーガリー文字対照表
《使用フォント》Brāhmī: ALPHABETUM Unicode,Siddham: 今昔文字鏡,Devanāgarī: Annapurna SIL

[文字構成]
母音字 子音字 子音結合と半子音字
[デーヴァナーガリー文字を使用する言語]
ヒンディー語 ヴェーダ語 サンスクリット語 マラーティー語
マイティーリー語 ボージュブリー語 ネパール語
[文字入力]

文字構成

母音字

文字は,音節文字(子音+母音)で単母音と二重母音からなる。しかし,語頭のゼロ子音の場合は,単独の母音字がある。a 以外の母音は,子音字の上下左右の一定の位置に,その音価を示す母音記号を付加して表す。二重母音は,もともと ai , āi および au, āu であったものが,サンスクリット語ではそれぞれ e [eː], ai [aːi] および o [oː], au [aːu] となった。

子音字

子音字の配列は,サンスクリット語のために古代インドで発達した精密な音声学の知識に基づいている。最初に配置されるのは,調音点が口腔の奥(軟口蓋)から次第にずれて唇に向かう順序に,各調音点ごとの5グループである。古期インド語派では閉鎖音であった硬口蓋音グループは,後に破擦音に分類される。各グループの内部は,無声と有声,無気と有気に対立で区別できる4個の子音,そして鼻音の計5個の子音が規則正しく並んでいる。
日本語の五十音図における「アイウエオ」「カサタナハマヤラワ」の成立に,インド系文字の配列順が深く関わっていた。なお,五十音図成立時の日本語の音価を考慮すると,「サ」,「ハ」はそれぞれ文字表の ca ,ph に対応していたことが日本語音韻史で明らかにされている。【出典】町田和彦(1998)「ヒンディー語」東京外国語大学語学研究所 編『世界の言語ガイドブック2(アジア・アフリカ地域)』(三省堂)

半母音・摩擦音

記号類

アヌスバーラは,文字の上に記号を付加して示す。ローマ字転写では ṃ または ṁ で表す。1個の鼻音として扱われるが,口腔内に閉鎖をつくらない点で他の鼻音と異なる。チャンドラビンドゥは,母音・半母音の完全な鼻音化を指す。ヴィサルガは,無声の気音で,直前の母音を発声した状態で気息を出す。

ハランタ形

子音は,そのままでは,常に母音 a を伴っている。そのため子音だけを表したいときはヴィラーマという特別な記号を付加したハランタ形を用いる。

異形字体

インド政府によりデーヴァナーガリー文字の標準化が図られているが,ムンバイ(ボンベイ)周辺を中心使われる最も一般的な(南方)スタイルと,カルカッタ(コルカタ)周辺で使われるサンスクリット語やヴェーダを表記する伝統的な(北方)スタイルがある。後者にはフりーフォント Uttara が Web 上から入手できる。

ヌクター

特定の文字の下部に付加された点をヌクターと呼び,アラビア語,ペルシア語,英語からの借用語を表記する場合に使用する補助子音字である。ṛa, ṛha は,ヒンディー語独自の子音である。


子音結合と半子音字

サンスクリット語およびサンスクリット語からの借用語で,語頭または語中の二つまたは三つの連続した子音が現れる。このような場合ただ最後の子音だけの後ろに母音が来ることを示すために結合文字が使われる。伝統的な方法ではこのような結合子音文字は,連続する子音文字の最後のもの以外の文字を半子音字(ハランタ,省略)形にすることによってつくられる。なお,子音の連続を結合文字として扱わない方法については,後述の「制御記号」を参照。

典型的なものは,たいていの文字に見られる右側に長い縦棒を取り去っている。(例:pya,tka) また,いくつかの結合文字は水平に結合せず垂直に結合する。垂直結合は二つの文字が da や ka のように長い垂直の棒を持っていないときに特に多く起こる。(例: dva,hya) r(a) を含む結合子音は,第一構成要素が r(a) であるときは,その後ろに来る子音文字の上にレーバと呼ばれる記号を子音文字の上に付加する。結合子音字の第二要素が ra の場合は,その前に来る子音文字の下に記号を付加する。(例: rpa,pra)【出典】Bright, William,家本太郎・内田紀彦訳「デーヴァナーガリー文字」, Peter T. Daniels, William Bright [編] ; 矢島文夫 総監訳 (2013)『世界の文字大事典』(朝倉書店)
子音結合文字を入力する際は,前述のヴィラーマを用いる。三つの連続した子音結合の場合も同様に子音字を順に結合する。(例: ṣṭra)

次に,ヒンディー語の子音字と,それに対応する半子音字を挙げる。

多数存在する結合文字から一部をつぎに示す。因みに,二文字からなる合成字すべてがここに掲載されている。

制御記号

Unicode に基づく文字合成上重要な役割を果たすのが, ZWJ “ZERO WIDTH JOINER”U+200C と ZWNJ “ZERO WIDTH NON-JOINER”U+200D である。つぎに,これら記号を用いて,ヴィラーマ,あるいは,半子音字を明示する際の入力方法をしめす。Windows 上で制御記号を挿入する方法は, ZWJ : Ctrl+Shift+1, ZWNJ : Ctrl+Shift+2 である。【出典】三上喜貴(2002)『文字符号の歴史 アジア編』(共立出版)

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デーヴァナーガリー文字を使用する言語

ヒンディー語

北インドを中心に話されるヒンディー語は,インドの主要公用語の1つであると同時に,憲法では連邦レベルの公用語(official language)ごして規定されている。

言語系統的にみると,ヒンディー語はインド・ヨーロッパ語族のインド語派に属する。インド語派は,古期(B.C. 1700~B.C.400),中期(B.C.400~A.D.1000),新期(A.D.1000~)に分けられる。ヒンディー語を含む現代インド・アーリア諸語の歴史は,新期インド語派の時代から始まる。

現代標準ヒンディー語は,西部ヒンディー方言群に属するデリー,メーラト周辺の方言を基に成立したといわれている。ヒンディー文学史にこの言語が登場してくるのは,19世紀以降である。ヒンディー文学史上黄金時代と称される中世ヒンディー文学では,西部ヒンディー方言群に属するブラジ語や東部ヒンディー方言群に属するアワディー語がもっぱら使用されていた。【出典】町田和彦(1998)「ヒンディー語」東京外国語大学語学研究所 編『世界の言語ガイドブック2(アジア・アフリカ地域)』(三省堂)

数詞

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ヴェーダ語

ヴェーダ語とは,ヴェーダ文献に用いられている言語のことであるが,ヴェーダ文献は,その成立に数百年を要したであろうと推定されているバラモン教の膨大な祭式文献で,その中には言語的変遷がうかがわれる。その最古層である『リグ・ヴェーダ』は,その言語・宗教においてペルシアに伝わる拝火教の聖典『アヴェスタ』と酷似し,その成立は一般に紀元前1200年を中心とする頃と推定されている。その後,呪文や祭文や歌詞集がまとめられ,やがてこれらに散文の注釈書がつくられていったが,その注釈書の最後にあたるウパニシャッドに至るとその言語も古典サンスクリット語に近づく。【出典】長柄行光(1998)「サンスクリット語」東京外国語大学語学研究所 編『世界の言語ガイドブック2(アジア・アフリカ地域)』(三省堂)

サンプルテキスト

出典:Sanskrit & Sanscrito | Ṛgveda (Rigveda)

出典:Sāmaveda

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サンスクリット語

サンスクリット(原語 saṃskṛtam)とは,「完成された言語」「洗練された原語」を意味し,インドの伝統の中では,俗語(ブラークリット語)に対する雅語のような存在で,神の言葉として神聖視もされた。我々がサンスクリット語を梵語と呼ぶのは,創造物ブラフマン(梵天)が造った言語という伝承に由来する。一口にサンスクリット語といっても,広義には古代インド・アーリア語全体を指し,狭義には古層のヴェーダ語と区別し新層のいわゆる「古典サンスクリット語」を指す。【出典】長柄行光(1998)「サンスクリット語」東京外国語大学語学研究所 編『世界の言語ガイドブック2(アジア・アフリカ地域)』(三省堂)

複雑な結合文字の例を挙げる。

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マラーティー語

マラーティー語は,サンスクリットに由来するブラークリット諸語から生じた民衆語(アバブランシャ)を母体として,9~10世紀にはその原型がほぼ固まったとされている。ただドラヴィダ系言語地域に接しているため,音韻や語彙にその影響をとどめている。独自の言語としての発展は,13世紀からの大衆的宗教運動,特にヴィトーバー神への熱烈帰依を説くワールカリー派の活動と共にみられた。14世紀後半以降,マハーラーシュトラはムスリム王権の支配下に入り,この時期にペルシア語・アラビア語の語彙がマラーティー語に入った。17世紀末以降にこの地域に一大政治勢力を確立したマラーター王朝の首都だったブネーを含む西マハーラーシュトラの言語が,次第に標準的マラーティー語の地位を獲得しいった。

マラーティー語はデーヴァナーガリー文字を用いて表記するが,この他に草書として考案されたモーディー文字があり、13世紀から1950年代まで、マラーティー語の文献の多くはモーディー文字で書かれていた。 また、ペルシャ文字ベースの表記も裁判所の文書で使用されていた。 【出典】内藤雅雄(2009)「マラーティー語」梶茂樹, 中島由美, 林徹 編『事典世界のことば141』(大修館書店)

特殊な合字の例を挙げる。

母音字の使用方法として,マラーティー語でサーヴァルカル方式(サーヴァルカル V. D. Sāvarkar の提唱)という,基本的には母音字の簡素化をめざし, a に略符を付してすべての母音字を表そうとする試みがある。【出典】内藤雅雄(2001)「デーヴァナーガリー文字文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)

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マイティーリー語

インドのビハール(Bihar)州東北部と,その北に隣接するネパール王国の平地部で話される,インド・ヨーロッパ語族,インド・アーリア語派に属する言語。この地方では,今では印刷にデーヴァナーガリー文字が使われるが,古くはサンスクリット語文献もマイティリー文字で書かれ,庶民と書記(カーヤスト)の記録・通信などはカイティー文字でなされる。

マイティリー文字(青字で示す)は,書記体系としてはデーヴァナーガリー文字とほぼ同じであるが,字形はそれよりも丸みを帯びてベンガル文字に近い。マイティリー文字が用いられる地域の中心ティルフト(Tirhut)地方にちなんで,ティルフティー文字(Tirhut lipi)ともいわれる(フォントはここからダウンロードする)。「ティルフト」とは「川岸の恵みを享受する(地方)」の意で,ガンジス,ガンダク,コーシーの3河川に囲まれた一帯を指す。【出典】飯田貞二(1992)「マイティリー(語)」『世界言語編(下2)』(言語学大辞典,第4巻,三省堂)

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ボージュプリー語

インドの,ウッタル・プラデーシュ州(Uttar Pradesh,「北部州」の意)の東部と,ビハール(Bihar)州の西部,および,それらの州の北に隣接するネパール王国の平地部で話される,インド・アーリア語派に属する言語(方言)。話者人口が4,100万人(推定)にものぼり,15世紀以来の文学的伝統があることなどを理由に,ボージュプリーを公用語化させようとする動きもあったが,強い支持を得るには至らなかった。なお,この地域では,カイティー文字の一変種,ボージュプリー・カイティー文字が用いられる。【出典】飯田貞二(1992)「ボージュプリー(語)」『世界言語編(下1)』(言語学大辞典,第3巻,三省堂)

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ネパール語

ネパール語は,印欧語族のインド・アーリア語派のパハール諸語の東部パハール語群に分類される。ネパール語は,すぐ西隣のインドのウッタル・プラデーシュ州北東部のウマーウン語,ガルワール語(中部パハール語群)と最も近い関係にあり,ヒンディー語やベンガル語とも同じ語派に属する。

11世紀から14世紀まで西ネパールで王国を保ったカス族は,13世紀には古ネパール語を記した銅版文書を残した。同じ頃カトマンズには別の言語(ネワール語の前身)を母語として持つ人々の王朝が栄えていたが,そこでも14世紀以降に碑文中にネパール語が見られ,ネパール語がすでにかなり東まで及んでいたことを示す。

17世紀までのネパール語資料は碑文が主体で長文は見られず,研究は深まっていない。18世紀以降は,サンスクリット語からの翻訳あるいは創作にネパール語が用いられ,実用書や文学での使用が定着する。1796年,中部ネパールに集落ゴルカを根拠地とるす勢力により,現在に続くネパール王国がたてられたが,ネパール語はそのもとで行政や法手続きに用いられる言葉としても広まり,また,標準化や辞書編纂の努力もなされた。【出典】石井溥(1998)「ネパール語」東京外国語大学語学研究所 編『世界の言語ガイドブック2(アジア・アフリカ地域)』(三省堂)


文字表最後の /gya/ は, j + ña と入力する。

ネパールで使用されている子音文字表の最後の3文字の名前をとって「チャトラギャー」と呼ぶ。これら3文字は,デーヴァナーガリー文字の正書法では基本子音文字とは考えられず,複合子音を表す合字として扱われてきた。これに対して,ネパールはこの3文字を独立した子音文字として扱うことを決定した。歴史的伝統に従うと,「チャ」「kṣa」を 「ka」と「ṣa」の複合子音とみる場合には,「チャ」で始まる単語は辞書や名簿などの中で「ka」の見出しの下に置かれる。しかし,字形や発音からは想像できない場所に「チャ」で始まる単語が現れることになる。こうした不便を託つよりは新しい文字として取り扱ったほうが合理的ではないか,というのが決定の理由であった。【出典】三上喜貴(2002)『文字符号の歴史 アジア編』(共立出版)

ネパール語に現れる子音結合文字の例を挙げる。

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テキスト入力

ユニコード

デーヴァナーガリー文字のユニコードでの収録位置は U+0900..U+097F である。

入力方法

ヒンディー語用キーボードを設定すると,タスクバーにはヒンディー語を表す「HI」が表示される。同様に,サンスクリット語「SA」,マラーティー語「MA」となる。これらデーヴァナーガリー文字の配列は, INSCRIPT (Indian script) Keyboard と呼ばれるインドの情報処理用標準キーボード配列である。仮想キーボードおよび入力方法については 多言語環境の設定 を参照。結合文字の入力方法は前掲「子音結合と半子音字」を参照。

デーヴァナーガリー文字フォント

北方(カルカッタ)スタイルのフォントとしては,Sahadeva, TITUS Cyberbit Basic, Uttara が挙げられる。下記のサイトからは,多種多様なフォントを入手することができる。

South Asia Language Resource Center | Annapurna SIL Fonts | WAZU JAPAN's Gallery of Unicode Fonts
[最終更新 2014/05/05]