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【地球ことば村・世界言語博物館】

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        ベルギーの言語紛争-その新しい段階

 ベルギーの言語紛争に関して気になる報告が朝日新聞10月4日朝刊に出ていました。、この国の言語紛争の新しい段階について詳しい報告をしています。記事のおおよそは次のようです:

 

この記事で書かれた現状について少し補足しながら、改めて考えてみましょう。

★ベルギーでは昔から三つの言語が話されていた。

北部フラマン地域ではフラマン語(オランダ語の地域方言)、南部ではワロン語(フランス語の地域方言)、東部の一部でドイツ語(ほぼ標準ドイツ語)です。ベルギー王国はこの三つの言語に平等の権利を与えて、三つとも国語(公用語)に指定しています。それぞれの言語の使用者の割合は次のようです: 

  フラマン語       58%
  ワロン語        31%
  その他(ドイツ語を含む)11%             朝日2006.10.04

 ベルギーの国民はどの言語を主に話すかによってそれぞれ背景の文化が違いますし、昔からお互いに国内の別の言語をそんなに熱心に学ぼうとする様子がありませんでした。例外は首都ブリュッセルで、フラマン語地域にあってもだいたい生粋のフランス語を好んで話しています。ここにはヨーロッパ共同体EUの本部もありますから、フランス語と英語が飛び交っています。

 ベルギーは1830年に国が成立して以来、国内に三つの言語と三つの文化を抱えていましたので、そこから出てくる問題をどう上手にまとめるかに常に苦労してきました。そこで、この立憲君主制の国は1993年に新しい憲法を制定して連邦制を採用したとき、国家の機能を分割して、三つの政府と議会を作りました。

 @連邦政府・議会:外交、軍事、司法など、

 A三言語共同体の政府・議会:文化と言語、

 Bフラマン語地域・ワロン語地域・ブリュッセル特区地域の地域政府・議会:経済等

各政府が主としてこのように所管することにしたのです。

 

★南北の経済格差が排他主義を生む

 しかし21世紀に入ると、新しい問題が出てきました。最大の問題は産業構造の変化です。南部ワロン地域の石炭・鉱工業が決定的に衰退します。失業者が増大しました。一方北部フラマン地域では現代的製造業・サービス業、それにアントワープ港を中心とする運輸産業が南部の経済を大きく引き離します。いま南部の失業率は北部の二倍を越えています。かつては南部がベルギー全体の社会資本と分配で優勢でしたが、今は南部が北部のお荷物になってしまったと主張する人達が現れ出しました。北部の羽振りの良さは、ブリュッセルやルーヴァン、ルイージ、アントワープといった国際性、学術と文化、消費産業にもはっきりと現れてきました。

 北部フラマン語地域では、先進的北部の儲けを南部の異言語地域に施すことはないというエゴから、まず社会保障の面から北部の自治を拡大しようという主張が生まれました。しかし地域行政府の権限内で処理できる分野は限られています。それを制約することが連邦という理念に含まれていたはずでした。一方、言語共同体政府・議会の権限は文化・教育に限られています。ここから地域の自主性をできる限り強め、フラマン語とフラマン文化を愛する「国民」を作ろうという政策が立てられます。岸記者が書いている「北部の仏語禁止・自治要求強化」はこのような背景があってのことです。母語と母語的文化の礼賛を排他的に進めようというには、きまって腹黒い裏があります。ベルギーの北部地域で現れたこの内向的な民族主義には、利己的自治要求という裏腹が透けて見えます。これがまた極右主義者の思う壷です。

 

★EUの言語政策に逆行する動き

 EUと欧州評議会は2000年末に「EU基本憲章」をまとめました。そこにはEUの言語政策の基本的な原則が示されています。それは「宗教的・文化的・言語的多様性を尊重する」というに尽きます。その思想に基づいて、EUは2001年を「欧州言語年」と定めて、いくつかの具体的なヨーロッパ域内教育プロジェクトを進めてきました。この中心になる考えが多言語主義です。具体的にいくつの言語をどう使うかについても議論が行われてきました。その一つが3言語主義といわれるものです。ベルギーで言えば、フラマン語・ワロン=フランス語・英語ということになるでしょう。EUの具体的な言語政策と現状については、是非、以下のサイトと参照してください。

 EUについて www.europa.eu/bulletin/en/welcom.htm

  3言語会議について www.spz.tu-darmstadt.de 

 これらEUや欧州協議会の理念と政策を勘案しますと、いまベルギーで起こっていることは歴史の歯車を逆さまに回そうとする企てのように思えます。ヨーロッパの統合という人類の歴史の重要な一歩が必然的に求める多言語主義の方向を内向的民族主義によってねじ曲げようとしているようです。バベルの塔が壊されて人類が言語と文化の多様性を享受できるようになったいま、再びバベルの塔のミニ・ヴァージョンを作って、そこへ籠もろうとでも考えているのでしょうか。そう言えば、上のバベルの塔の名画はフランドル、つまり北部ベルギーの画家ブリューゲル(15251569)の作品でした。

(金子 亨)