地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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ことばの言葉

ピジン

ピ ジン語は混合言語の一種です。ある言語Aを話す人たちが別の言語Bと触れて、A、Bを混ぜ合わせた言語Cを作って使い始めたとします。この新しい言語Cは 元の言語Aとも出向いた先の言語Bとも違った仕組みをもっていて、その地域や特別の目的で、たいていは口語としてだけ用いられます。このような言語Cをピ ジン語といいます。

例えば、ハワイに移住した日本人が英語もどきの言語を作って使ったことがあります。これが英語ベースのハワイ・ピジン語です。このようなピジン語はニューカレドニアにもあって、これはフランス語ベースのピジン語です。


クレオール

あ る地域でピジン語ができたとしましょう。そのうちに、ピジン語しか話せない親から、やはりピジン語しか話せない子ども達が育ってきます。ピジン語が世襲さ れます。こうなると混合言語だったピジン語が世襲の一人前の言語となって、子ども達にとってはただ一つの母語として伝えられるようになります。この言語が クレオール(クリオール)語と言われます。西インド諸島の移住白人系の人々を指す言葉から転用された用語です。


円唇性

唇を円い形に狭めて発音する音。例えば、母音〔O〕、子音〔Kw〕など。


喉頭音

喉頭を使って発音する音。例えば、[h]。声門で調音する音(声門閉鎖音など)を含めることもあるが、区別して使う方がいいでしょう。(参照:喉頭音理論といって19世紀末に印欧比較言語学で問題になった理論があります。)


口蓋化(口蓋調和)

口むろの上壁を口蓋といいます。口の前側が硬口蓋、奥が軟口蓋です。発音するときに舌を口蓋にくっつけたり近づけたりして音を出すことを口蓋化といいます。例えば、「ン」をそのように発音すると、「ニ」から「イ」を引いた音になります。これが口蓋化された[n]、つまり[n']です。


円唇同化

近くの音に引かれて、その音に靡いてしまうことを「同化」と言います。前や後ろに丸め口の音[o]などがあって、その音に引かれて丸め口になった場合が「円唇同化」です。例えば、チュルク系の言語では接辞の母音が語幹の母音に靡くのですが、そのとき語幹に[o]系の母音があると、接辞の母音がそれに靡きます。

例:tört(4)üncü(番)対 toÄuz(9)+uncu(番)
トィルト・インチ(4番目) 対 トフズ+オンツ(9番目)


母音調和

あ る言語で母音が高舌母音、低舌母音などいくつかの種類に分かれて、一語の中では同類の母音だけが使われるという現象があります。この現象を母音調和といい ます。これはフィン・ウゴル系の言語、アルタイ系の言語に多いのですが、古代日本語にも母音調和があったという説があります。


唇音牽引

ある子音の特徴が語のなかで他の音に影響することがあります。例えば、唇を使う音が同じ語中で他の音を唇音にする場合があります。これが唇音牽引と言われます。一つの語を円唇母音でそろえるのもその一つです。


そり舌音

舌先を少しそらして上顎にそわせて発音する音。例えば、中国語の「10」はそり舌の高い音シィです。また「日本」はリーベンですが、この時の「リー」も強い反り舌です。


接辞

語 が主要部と付属部にわけられることがあります。例えば、「お食べなさい」という述語は「食べ」の前に「お」、後には「なさい」という付属部分がついていま す。このとき「お」は接頭辞、「なさい」は接尾辞です。これらをまとめて接辞ということがあります。ある言語では語幹の真ん中に入る接辞があって、これは 接中辞といわれますし、接頭辞と接尾辞が組になった接辞もあります。日本語の付属要素には活用するものがあって、これは付属語と呼ばれ、接辞と区別される ことがあります。上の「なさい」と違って、「なさる」が付属語の例です。


アスペクト

動 詞などの意味が表すことがらの時間的推移過程。動詞など用言の本体が表す時間と動詞に付属する要素が表す時間とを区別して、前者を語彙的なアスペクト、後 者を単にアスペクトということがあります。もともとはスラブ系諸語の動詞に完了を表す形式と継続などの不完了を表す別の形があったことからこの区別をアス ペクト(ロシア語でヴィート)と名付けたのに由来する文法概念です。日本語では動詞の「点く」が瞬間的、「見える」が継続的な語彙アスペクトをもち、「て いる、てしまう」などの形がそれぞれ継続と完了のアスペクトを表すといいます。

語族

同じ系統関係にあると推定された一群の言語。例えば、ノールウェイ語はインドのヒンズー語と同じ語族に属すると考えられています。この広い範囲に跨る語族が印欧(インド・ヨーロッパ)語族と言われます。

語 族を小分けした単位を語派と名付けることがあります。例えば、イラン語派などがそうで、この中にはイランとその東にあるイラン系(ペルシャ系)の言語が入 ります。例えばアフガニスタンのパシュトー語やカーブル語です。それらの間にハザーラ語とダリ語系の少数者言語がありますが、これを話す人たちはモンゴル 系だと言われます。このように、語族も語派も歴史的・地域的に分類されることがありますが、共に民族や人種などとは無関係な純粋に言語学上の分類です。

またどの語族にも属さない言語もたくさんあります。例えば、日本語、アイヌ語です。しかもこの二つの言語はお互いに無関係です。こうした言語は孤立言語と呼ばれ、いわゆる古アジア諸語はほとんどが孤立言語の集まりです。


系統関係

あ るひと組みの言語Aと言語Bについて、その語彙のある数以上のものが規則的に共通である判断されるとき、これらの言語が共通の親言語、祖語Cをもつ間の関 係を系統関係と言います。例えば、現代の東京方言の母音/e/は規則的に沖縄の首里方言の/i/に当たります。/ke/:/kii/(毛)、/te/: /tii/(手)、/kane/:/kani/(金)、/sake/:/saki/(酒)、/ude/:/udi/(腕)のようです(アクセントの表示を 略しました)。このように東京/e/:首里/i/の音に対応が法則的に認められます。

音 韻対応が二つの言語の全般について規則的に認めるならば、それらを生んだ祖語を推定できます。しかしそれは推定形だけからなる抽象的な言語で、歴史的な実 在は主張できません。東京方言と首里方言との祖語ならば、古代奄美語を祖語と想像できるかも知れませんが、印欧語族に属するというドイツ語とラテン語との 祖語などはおそらく全く実体が存在しないでしょう。


印欧語族

昔、 ジョーンズ卿という人物が東インド会社に赴任したとき、古代インドのサンスクリット語などが英語やラテン語と似ているのにびっくりして、イギリスに帰って からその印象について長広舌を振るいました。それが期になって19世紀には英国からインドに跨る一人種の言葉という妄想が生まれました。これが印欧語族と いう思想の基です。そこから瓢箪から独楽が出たように、ヨーロッパで歴史比較言語学という学問が生まれました。その半世紀後の19世紀中頃には進化論のイ ンパクトを受けて、言語研究の本道とまで唱道されました。そのお陰でヨーロッパ地域にあった古典諸語だけでなく、やがてとりわけトカラ語やヒッタイト語な ど中東の死語の研究にも見るべき多くの研究を残しました。


アルタイ諸語

ユー ラシア大陸の東部から中央にかけて多くのチュルク系(例:トルコ語)の言語、モンゴル系の言語(例:モンゴル語)、ツングース系の言語(例:満州語)が話 されています。それぞれの言語は各々語族を成していて、厳密な手続きによってそれぞれに系統関係が認められています。しかしそれらの系をまたがった系統関 係となると、系統関係を見せる語彙は限られます。そのために三つの言語系をまとめて一つの語族を作るには十分なデータがあるとは言えません。従って、アル タイ語族という語族を認めるには問題があります。さらに朝鮮語と日本語をアルタイ諸言語に加えていいかという問題があります。この答えは今のところ大変に 否定的です。

このように、いわゆるアルタイ語族やアルタイ諸語という言語群は未だに分からないことを非常に多く含んだ興味深い言語の群れです。

オーストロネシア語族

マ ラヨ・ポリネシア語族ともいいます。この語族に含まれる言語は、西はマダガスカルから東はイースター島まで、北は台湾からハワイを経て南はニュージーラン ドまで、太平洋の非常に広い地域に広まっています。この言語を話す人々は4千年ほど前にユーラシア大陸の南東部から太平洋に船出して、行き着いた島々でそ れぞれの言語を発達させていったと考えられています。それが、インドネシア、ミクロネシア、メラネシア、ポリネシアで話されている総計500におよぶ言語 です。それらの言語の間には語彙と構造の面で大きな違いが数多く見つかっていますので、いくつもの語派に分かれます。しかし語派の間の系統的関係は音韻と 語彙の面で多くの意見が出ていて、語族としての統一性は否定できません。

こ の語族にはよく知られた言語が多くあります。西部語派では台湾原住民諸語、インドネシア諸語、フィリピン諸語など、東部語派にはニューギニアとその東に広 がる島々の言語やフィジー語、北部にハワイ諸語など私達に親しい言語が含まれます。この語族に含まれる言語の数は世界の語族の中でも最大で、大小さまざま で、しかも未研究の言語も多いです。


オーストロアジア語族

イ ンドシナ半島とその北西部で使われている言語の群で、マレーシア語、タイ語、ビルマ語、ミャオ・ヤオ語などの馴染みの言語を含んでいます。ただ、ヴェトナ ム語はインドシナ半島北西部のモン・クメール諸語と違って複雑な声調を持ち、音韻も語彙も周辺の言語と違っているので、この語派に含めるかどうかについて 論争があったほどです。


モン・クメール諸語

この言語群にはモン・クメール語派として系統関係を認めることもあります。クメール語(カンボジア)、モン語(ビルマ・タイ)などの言語を含んで、インドシナ半島の北西部から中国の雲南省地域でも使われています。オストロアジア語族の一部を成す言語群です。


ドラヴィダ語族

ド ラヴィダ諸語を話す人々は、主にインド亜大陸南部やスリランカに住んでいます。この人たちは今日のイランの北東部からこの地に移住してきたと思われてい て、その経路に当たったインド北西部にも移動の途中でそこに定住したと思われる人々が居ます。この語族には。タミル語、テルグ語、カナラ語、マラヤーラム 語など20ほどの言語が属すると考えられていて、そのうちのタミル語はスリランカ、マレーシア、アフリカ東部などに数百万の話者がいる大言語です。このタ ミル語を日本語と関係づける人もいます。それくらいに言語構造に日本語と似たところが見いだされる言語のひとつです。


シナ・チベット語族

シ ナ・チベット語族という大きな言語群を想定する意見があります。この意見によると、漢語や広東語などの中国諸語がひとつ大きな語群をつくり、チベット・ビ ルマ語派とでも言うべき言語群と組を作っていると言います。これらの語派には10億人を越える人々がいると考えられているように、それぞれに多くの分から ない問題があります。特にチベット・ビルマ語派には中国南部のミャオ・ヤオ諸語やチュワン系の言語を含み、これらとタイ語に属する言語との系統関係は分か らないことが多い現状です。

この語族の特徴として、複雑な音調や文法的な動詞・名詞の語構成法などがあげられますが、このような類型的な特徴がこの大言語族の歴史的な関係を決めるためにどう関係するかは将来の重要な研究課題と言うべきでしょう。


ペルシャ語系言語

中 東からユーラシア南部にかけて話されている言語にイラン語派に属するといわれる多くの言語があります。この言語群の中心は昔も今もいわゆるペルシャ語系の 諸言語です。イランの公用語であるペルシャ語はアラビア文字で書かれますが、これは系統の違った言語の文字を借用したものです。ペルシャ語は非常に古い言 葉で紀元前数千年からの碑文が残されていますし、古代ペルシャ語の一つと言われるソグド語はシルクロードの通用語であったらしく、日本にも沿海州にも渡来 したことがあるといいます。

中東の国家を持たないクルド民族の言語もイラン系ですし、アフガニスタンの主な言語であるパシュトゥー語や広域言語ダーリ語もそうです。アラブ語と並んでこれからの世界で大切になる言語群です。


チュルク系言語

チュ ルク系の言語は、ユーラシア大陸の中央部で古くから多くの民族によってはなされています。中国の古文献に現れる西夏や突厥などの言語がチュルク系であった と言われています。今では西はトルコ、東はヤクート(サハ)まで、大小さまざまな民族がこの系統の言語を話していて、東西でなんとか分かる程度にまとまっ た語彙と文法を持っていますので、一つの語族と考えていいようです。この言語はしっかりした語幹に接尾辞がいくつも続くという膠着的(接合的)な語構成の 仕方に特徴があります。この言語群をモンゴル諸語とツングース諸語と一緒にアルタイ語族にまとめる見解もあります。


コーカサス諸語

黒 海とカスピ海の間、コーカサス山脈を取り囲む地域は、比較的狭い地域なのに、世界でもあまり例をみないほど、たくさんの面白い言語が集まっています。一番 大きな言語は南コーカサスのグルジア語です。北西コーカサスにはアディゲ語、アブハーズ語などの美しい言語が、また北東部コーカサスにはチェチェン、イン グーシなどの言語が使われていて、それぞれの古い豊かな伝統をことばに映しています。

この地域は近代の始めからロシア人が植民地化しようとした地域であったために、未だに大変な困難に見舞われていますが、人々の自覚と果敢な抵抗によって人々の言語もまだ守られています。


スラブ諸語

イ ンド・ヨーロッパ(印欧)語族の東にあるスラブ系の民族の言語がスラブ語派と呼ばれています。スラブ諸語は大きく東・西・南の三類に分かれます。東にはロ シア語やウクライナ語が、西にはポーランド語やソルブ語が、南にはブルガリア語やマケドニア語の他に旧ユーゴ・スラビアに属していたスラブ系の民族の言語 が含まれます。

スラブ諸語は大変保守的で印欧語の古い性質を音韻や文法のいくつかに残しています。またこの言語群にも消えかかった言語がいくつかあります。その一つがソルブ語で、ドイツ語圏の東に生きています。


孤立言語

他の言語との系統関係が証明できない言語があります。まわりの言語や関係のありそうな言語との間で、単語に共通の要素がほとんど見いだされず、音の組織にも法則的な対応が確立できないとなると、そのような言語は孤立しているといわれます。

言 語は交易の用具ですから、特別な地理的環境にでもない限り、孤立して存在することは何の利益にもなりません。もともとはまわりの人々との交流もあったはず です。言語が孤立するにはもともとあったはずのまわりの交易言語が沈没して無くなったとか一人で移動してきてまわりを沈めてしまったと考えるのが道理に 合っています。

日 本語は孤立言語と言われます。この言語はどこからか移ってきて、元とまわりが無くなったのでしょう。アイヌ語も孤立しています。日本語に分断されたのかも 知れません。昔の親族も浸食されたのでしょう。このような言語がユーラシア大陸の東端にいくつかかたまって存在します。また西端のバスク語もそうですし、 世界の多くの地域でこのようなことが起こっています。しかしこれからはこうしたことを起こしてはならないでしょう。


比較言語学的対応

あ る言語Aと別の言語Bとが親族関係にあると仮定します。この仮定にもとづいて、二つの言語の語彙を比べます。そのとき大体同じ意味の単語が似た音の繋がり でできていたならば、その音の対応を問題となる言語の語彙を比較し、そこに含まれるそれぞれの音について認められる一定の対応を見つけます。例えば、ラテ ン語とフランス語で「馬」はそれぞれcaballusとchevalといいますが、ここで語頭のc(a)-と()- が対応します。そしてこの対応が他の同じ仕組みの語について規則的に対応して、一つの音韻対応規則ができていることが分かったとします。このときラテン語 とフランス語のこの音声構造について音韻対応が成り立ったと言います。そしてこの種の音韻対応が両言語全体に成り立つと分かったとき、その二つの言語は音 韻対応に基づいて比較言語学的に対応すると言います。

ま ず二つの言語の親族関係が仮定されます。それを厳格な音韻対応を集めて証明するのです。だから最初の仮定が成り立たないところでは始めから無理な話です。 ですから例えば日本語と中国語(漢語)との間で比較言語学的系統関係を求めることは荒唐無稽な作業と言うことになります。


シンタックス

統語論。シンタクス、構文論などとも言います。人間言語を見るときの見方の一つで、音や形ではなく、記号の連なりの規則を問題にする見方です。

言 語を見るとき、ある言語にどのような音がどう連なっているか、それにアクセントなどの要素がどう被さって表現されるかを考える見方があります。これを音韻 論と言います。別に音声学という分野があって、これは音の物理的特徴を研究する学問なので、物理学の分野の一つです。次ぎに主に単語の成り立ち方を視野に 入れた研究分野があります。これは形態論と言われます。形態論を進めると、自由に動き回ることのできる記号要素にぶつかります。この要素の振る舞い方を研 究するのがシンタクス、統語論、構文論と言われます。しかしこの分類は多分にきれい事で、実は互いに入り組んでいます。音韻論と形態論のあいだにも形態論 と統語論の間にも不可分の関係があって、それぞれ面白い問題を提起します。言語全体の構造はさまざまな光を当ててみてやっと何とか解ってくるものですか ら、これらの見方は総合して運用することが大切です。


膠着

単語ができるとき、意味と音の元になる部分と、意味を補填したり他の語や文の中での役割を示したりする補助的な部分とを分けることがあります。元になる部分を語幹、補助的部分を接辞とはっきりわけることができる場合もあります。

し かし例えば中国語のように語幹だけがあって接辞が無いような言語(孤立語)もありますし、接辞なのか何なのか分からない要素が連なって、単文とも単語とも 判別できないような言語(複統合語)もあります。ちょうどその中間に語幹にいくつかの接辞が付いて単語を作るという素直な言語があって、これが膠着語(接 合語)といわれます。日本語や朝鮮語がそのタイプです。


屈折

一 つの単語が、それを含む文でどのような役割を果たすかに応じて音や形を変化させることがあります。例えば動詞の形、特に語幹の音が現在形と過去形で違う場 合、名詞が複数を示すとき、単に語尾に何かの音を付け加えるのではなく、語幹の音を変えてしまうという場合が屈折とか「活用」とか「曲用」とか言われてき ました。しかしこの用語は国文法専用で余所には通用しませんから、日本語研究の国際化に邪魔になるでしょう。