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【地球ことば村・世界言語博物館】

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世界の文字

ソグド文字 英 Sogdian script


紀元前2世紀頃のソグディアナの位置 [トムル / Public Domain / 出典]
ソグド語とは,ソグドに定住したイラン系の民族の話す言語で,現在イランで話されているペルシア語の遠い親戚である。ソグド人は,アケメネス朝時代に導入されたアラム文字で,彼らの言語を表記するようになった。一般にソグド文字と呼ばれているものは,このアラム文字が,サマルカンドを中心としたいわゆるソグディアナ(Sogdiana)で独自の変化を遂げてできたものである。文字を書く方向も,本来アラビア文字のように,右から左に横書きしたものが,すでに 6 世紀には上から下に縦書きするようになっていた。後にこれがウイグル人に,ウイグル人からモンゴル人に,さらには満洲人に受け継がれていったことは有名である。[吉田 2001]

文字資料の発見地としては,まず敦煌の蔵経洞およびトゥルファン盆地があげられ,この 2 つの地方で,全体の 9 割近くが出土している。敦煌で発見された資料のなかで最も古いまとまった量のものは「古代書簡」と呼ばれる古風な言語で書かれた手紙である。若干の断片は,東トルキスタンの各地(ショルチュク,クチャ,コータン,ローラン)からも出土している。ソグド本土のものとしては,サマルカンドの東方のムグ山で発見された,80 点ほどのムグ文書が有名である。[吉田 1991]

ソグド文字は,いくつかの字体に分類することができる。「古代書簡」が書かれている文字は,その後の文献の文字に比べて古風で,アラム文字の特徴を多く残している。また,アラム文字に比較すれば草書化しているとはいえ,一つ一つの文字はまだ別々に書かれている。8~10 世紀に書かれた文献の文字には 2 種の字体が区別できる。その 1 つは正書体(formal script)と呼ばれるもので,多くの仏典がこの文字で書かれている。この字体は西暦 500 年頃に成立し,正式な文書を書く文字として定着したものと推定されている。もう 1 つの字体である草書体(cursive script)は,ムグ(Mug)文書に見いだされ,遅くとも 7 世紀には成立していた。

文字構成

次に掲げる文字表において,文字の名称は,セム系の文字に一般に与えられているものである。アラム文字は,エレパンティネ(Elephantine)出土のパピルス(前 5 世紀)に見出されるものである。草書体の文字としては,ムグ文書のものを使っている。語末で特殊な形式をとるものは,カッコの中に入れてある。n と z および x と γ は語頭・語中では区別されないが,語末では前者は引き伸ばされた尾をもち,後者はそれをもたない。草書体の文献では,語中においても,n や x と区別するために x と γ は後続の文字から切り離して書かれる場合がある。


ソグド語テキスト

マニ教について記したソグド文字の文献 [Shahryâr Zâdag / Public Domain / 出典]
モンゴルで発見されたソグド文字碑文の拓本(ブグト碑文、6世紀)[Yastanovog / CC BY-SA 3.0 / 出典]

横書き・縦書き

アラム文字から派生したソグド文字はの書写方向は,アラム文字同様に右から左へ横書きされていた。5 世紀後半以降中国から導入された縦書きを主にしながら,本来の横書きも行われ続けていた。玄奘は『大唐西域記』のなかで,630 年インドへの往路にサマルカンドを通過しが,ソグドでは文字は縦に読むと明言している。「字のなりたちは簡略で,もと 20 余文字であるが,それが組み合わさって〔語彙が〕でき,その方法が次第にひろがって〔文を記して〕いる。ほぼ記録があり,その文を竪に読んでいる,そのやり方を順次に伝授して,師匠も弟子もかえることがない」[吉田 2014] 縦書きの伝統はウイグル文字,モンゴル文字へと受け継がれていった。

ユニコード

3 ~ 5 世紀古ソグド文字(U+10F00..U+10F2F)Noto Sans Old Sogdian,および,7 ~ 14 世紀ソグド文字(U+10F30..U+10F5F)Noto Sans Sogdian

関連リンク・参考文献

[最終更新 2022/06/16]