リス音節文字 英 Lisu syllabic script
中国内のリス(傈僳)族は,新リス文と呼ぶラテン文字による表記法のほかに,雲南省西北部ではリス文(フレイザー文字)と呼ぶラテン字変形文字を,また,雲南省中部ではポラード文字を使っている。これら3種の文字のほかに,雲南省西北部の維西傈僳族自治県で使われるもう一種のリス族の文字が「リス音節文字」である。創作者の名前から「汪忍波のリス音節文字」とも呼ばれる独特な形態をもつ文字である。汪忍波は,リス族農家に生まれ,12 歳で祭天古歌を通読できるようになり,のち巫師となった人物であったらしい。
リス音節文字例
傈僳識字課本
音節文字資料は,汪自身が書いたとされる,歌謡形式の『傈僳識字課本』(全 6 冊)と『汪忍波自伝』(1~4冊)が中心で,そのほかに『祭天古歌(創世記,占卜辞,大極,歴訪)』や「駆邪経」などが知られている。しかし,いずれも実際のテキストは流通しておらず,内容もよく分かっていない。右図は,『傈僳識字課本』を公刊する際に用いた版木であり,そのため,文字の左右が逆になっている。
汪忍波自传(木玉璋)
文字構成
この音節文字の字形についてとくに注目すべきは,若干の字形を,身近で使われている漢字とナシ象形文字から借りている点である。しかし,漢字にしてもナシ象形文字にしても,本来の読み方や意味から離れて字形のみを借りて,まったく関係のない価値を与えている。たとえば,王の字形を借りて sa44 と読み,「三」の意味を与えるなど,50 字を超える例がある。(西田)
リス音節文字例(戴庆厦, 许寿椿, 高喜奎)
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注
- 西田龍雄(2001)「リス音節文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- 戴庆厦, 许寿椿, 高喜奎主编(1991)『中国各民族文字与电脑信息处理』(中央民族学院出版社)
- 木玉璋(1991)「傈僳族音节文字及其文献」中国民族古文字研究会编『中国民族古文字研究』(天津古籍出版社)
[最終更新 2019/04/20]