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【地球ことば村・世界言語博物館】

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世界の文字

タイ文字 英 Thai characters


タイ語は,タイ王国の公用語で,系統はタイ・カダイ語族タイ(Tai)諸語の南西タイ語群に属す。話者は約 5.000 万人で,タイ国内が主な分布域である。タイ語は,単音節声調言語である。音節は,頭子音 C1 を核とし,短母音 V,または長母音 VV, そして末子音 C2 より構成され,音節全体に声調 T がかかり,C1VC2/T または C1VV(C2)/T と図式化される。

ラームカムヘーンの碑文 [Ananda / Public Domain / 出典]
タイ文字の系統は,南インド系文字「ブラーフミー文字」に遡る。ブラーフミー文字は,インド南部では主として貝多羅葉が書記に用いられていたため,丸みを帯びた字形に変化していった。この南インド系の文字を古クメール文字が受け継ぐのであるが,その際,主としてパーリ語の経典の筆写に用いられていた装飾的な「ムール体(楷書体」と,クメール語の表記に一般的に用いられていた「チェリエン体(草書体」の 2 種類があった。タイ文字は,13 世紀に,後者の「チェリエン体」に範を採り作られたものと考えらている。(クメール文字〈書体〉参照)以下,佐藤(2001, 峰岸(1996)による。

最古の文字資料は,13 世紀現在、確認されている中で、タイ文字による最古の碑文である。右図は,スコータイ歴史公園にあるレプリカ。

文字組織

現行タイ文字は,子音文字 42 種,母音符合 21 種,声調符合 4 種,雑符合 4 種,数字 10 種からなっている。子音文字と母音符合を組み合わせて,表単音文字を表す。母音を表記する記号は,子音文字に付加される「符合」だと考えられており,それぞれの種類によって,子音文字の上下左右につけれられる。大文字・小文字の区別はなく,分かち書きはせず,句読点を用いない。

phrácan (月) 文字構成
U+0E1E U+0E23 U+0E30 U+0E08 U+0E31 U+0E19 U+0E17 U+0E23 U+0E4C
phɔɔ rɔɔ a cɔɔ a nɔɔ thɔɔ rɔɔ 黙音符
二重頭子音字 黙音字

子音文字

子音文字は,元来 44 字あったが,現在では 2 字廃字となり,42 字が使用されている。各字母を単独で発音するときは,/kɔɔ/, /khɔ̌ɔ/, /khɔɔ/ … のように,母音 /ɔɔ/ をつけて発音する。表では,初頭音と末尾音を k-/ -k のように示した。タイ語の子音文字は,末尾位では,外来語風に発音する場合以外は,内破音の /-k, -t, -p/ および /-ŋ, -n, -m, -y, -w/ のいずれかの音を表す。表に示した 7, 26, 27, 39, 41, 42 の 6 文字は末尾位には用いられない。→ 佐藤 p. 558.

子音文字には,各字母のあとに,その文字を使った代表的な単語を付加した名称がある。この名称は,もともと 19 世紀末に,ダムロン親王(1862~1943)によって教育上の目的で考案されたものである。軟口蓋音を表す子音文字(1~5)から配列されているのは,日本語の五十音図と同様,サンスクリット語の音韻学の影響である。なお,硬口蓋音は(6~11),歯茎音は(12~23),唇音は(24~31)である。この子音文字のアルファベットは,最初の部分をとって,“kɔɔ kày khɔ̌ɔ khày”,または,“kɔɔ khɔ̌ɔ khɔɔ” と称す。

子音文字は,「中子音字」「高子音字」「低子音字」(表では[中][高][低対・低単]と略記)の「三群」と呼ばれる 3 つのグループに分類される。低子音字はさらに,高子音字に同音の文字をもつ「対応字」と,中子音字にも高子音字にも同音の文字をもたない「単独字」に分けられる。これらは,声調と密接な関係にある。サンスクリットの音韻学による無声・有声の区別と同様に,中子音字は無気音,高子音字と低子音対応字は無声有気音,低子音単独字は有声音という音声的特徴をもっているが,低子音対応字は,かつて,有声音であったと考えられている。

/th/ を表記する文字は 6 種(14,15,16,20,21,22)もあるが,これは音韻変化によって同一音に合流した場合でも,語彙の借用の際,原語の綴り字を保存しているためである。子音文字は,表記原語の種類によって,原有子音字,中性子音字,増補子音字(表では《原》《中》《増》と略記)の 3 グループに分かれる。原有子音字は,原則としてインド系(サンスクリット,パーリ語)の借用語の表記に,中性子音字は,本来のタイ語およびインド系言語,クメール語,英語などからの借用語の表記に,増補子音字は,タイ語の表記に不足なため,原有子音字や中性子音字を基に作り足したものである。

《表》子音文字

母音符合

母音表記には,各種母音符合と,子音文字の (yɔɔ),(wɔɔ),(ʔɔɔ)の 3 文字が用いられる。


声調符合

文字としての声調符合は赤字で示した 4 種が用いられる。声調記号が用いられるのは,原則として,平滑音節(母音または /-ŋ, -n, -m, -y, -w/ で終わる音節)の単語であるが,借用語や擬音・擬態語など若干の停止音節 /-k, -t, -p, -ʔ/ で終わる音節)の単語にも用いられる。平滑音節の単語の声調は,頭子音字の種類(中・高・低)と声調符合の種類で決定され,停止音節の単語の声調は,頭子音字の種類と母音符合(短・長)で決定される。声調型は 5 種あり,第 1 母音の上に記号をつけて示す。

声調を単純化した図 [Skh2011 / CC0 1.0/ 出典]

雑符合

黙音符,省略符,反復符などがある。


数字

タイ数字は,次の通りである。


タイ文字文例

世界人権宣言第一条 [Universal Declaration of Human Rights - Thai]

タイ文字入力

ユニコード

タイ文字のユニコードでの収録位置は U+0E00..U+0E7F である。廃字となった文字は,U+0E03,U+0E05 の 2 文字である。


入力方法

タイ語用キーボードを設定すると,タスクバーにはタイ語を表す「TH」が表示される。仮想キーボードおよび入力方法については 多言語環境の設定 を参照。

タイ文字の入力方法は,(発音順ではなく)綴り字の順序で,たとえば,左側に置く母音記号は,子音字に先行して入力する方式である。下付きの母音記号と声調符合が両方とも付される場合は,子音字・母音記号・声調符合の順に入力する。


分かち書き

thai2english は,入力したタイ文を分かち書きし,それぞれの単語の翻字(ローマ字)と訳を表示する。タイ文の行末改行処理などを行う際の参考になる。このサイトを利用して,上記『世界人権宣言』の文章を翻字したものを次に示す。
má-nút táng lăai gèrt maa mee ìt-sà-rà láe sà-mĕr pâak gan nai gia rá-dtì ศักด [ gìat-dtì-sàk ] láe sìt-tí · dtàang mee hàyt pŏn láe má-noh tam láe kuan bpà-dtì-bàt dtòr gan dûay jàyt-dtà-naa-rom hàeng pá-raa-don pâap

関連リンク・参考文献

[最終更新 2021/09/06]