地球ことば村
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ルクセンブルク語


 ルクセンブルク語(Lux.)は、ドイツ語やオランダ語等と同様、西ゲルマン語に分類される言語で、話者数は約40万人と見積もられています。1984年の言語法によりルクセンブルク大公国の「国語」として定められた同言語は、ドイツ語方言地理学では西中部ドイツ語の中のモーゼルフランケン方言に分類されます(地図参照(König 199812: 64))。ドイツ語やオランダ語などが属する西ゲルマン語の方言研究は、19世紀以来、比較的盛んに行われています。下の地図中で示される等語線は、南の上部ドイツ語から北の低地ドイツ語にかけて段階的に観察される「高地ドイツ語子音推移」という通時的な子音変化に基づいており、西ゲルマン語における方言の大まかな区分を示しています。ルクセンブルク語が属する西中部ドイツ語は、南北に等語線の扇を広げる形状から「ライン扇状地」(dt. Rheinischer Fächer)とも呼ばれ、上の子音連続が細かく段階的に観察される地域として重要視されています。


※クリックすると拡大します。


ルクセンブルク語内部の方言

 ルクセンブルク語は内部にも方言差があり、大きく4つの方言地域に分けられます:中央方言(clux.)、北方言(nlux.)、南方言(slux.)、東方言(elux.)。この中で、外国人向けのルクセンブルク語語学参考書に載っているものに最も近いのは、首都のルクセンブルク市を中心に話されている中央方言です。北方言は、ドイツのケルン方言(dt. Kölsch)などが属するリプアリア方言の特徴、「k 挿入」(もしくは「歯茎閉鎖音の軟口蓋化」)が観察されます(nlux. [lɛkt], köl. Lück, clux. Leit, dt. Leute「人々」)。一方、南方言は、スイスドイツ語などが属するアレマン方言で観察される現象「s の硬口蓋化」を示します(slux. [fɛʃt], clux. fest, dt. fest「固い」)。東方言では、言語変化の古い段階の形式が残る傾向にあり、通時的な言語変化を追う際に重要な役割を果たします(ohg. wetar, mhg. wet(ter) (dt. Wetter) > elux. [veːdɐ] (長音化) > clux. Wieder [vɪədɐ] (二重母音化)「天気」※1)。


ルクセンブルク語の特徴

 音韻に関わる最大の特徴は、この言語が西ゲルマン語では珍しい高低アクセントを有する(有していた)言語だということです。高低アクセントを有するゲルマン語として有名なのは、ノルウェー語やスウェーデン語などのスカンジナビア半島の北ゲルマン語ですが、ルクセンブルク語が属する地域は、「ライン高低アクセント」もしくは「中部フランケン高低アクセント」と呼ばれる高低アクセントが観察される地域です。アクセントパターンは、1型(高低:lux. haut (dt. heute)「今日」)と2型(高低高:lux. Haut (dt. Haut)「肌」)の2種類です。残念なことに、この高低アクセントは今日のルクセンブルク語ではほとんど失われてしまっていますが、いずれにせよ通時的な音韻変化を観察する際に、避けては通れない重要な特徴であることは確かです。

 形態に関して特徴的なのは、ルクセンブルク語では定動詞だけでなく、従属文を導く要素(補文標識)も主語と一致して屈折するということです:

lux. Du kanns dat kréien, wanns de wëlls.
  you can-2.sg. that get if 2.sg. you want-2.sg.
  「ほしければ、とってもいいよ。」

この現象は、標準ドイツ語や標準オランダ語では観察されないものの、バイエルン方言などのドイツ語方言や、多くのオランダ語方言、西フリジア語など、西ゲルマン語において観察される「補文標識の屈折」という現象です。

 統語に関する特徴は、文末における動詞群の語順が助動詞の支配する要素によって異なるということです:

lux. datt ech dech gesi hunn/*hu gesinn.
  that I you seen have/have seen
  「私が君にあったこと」
lux. datt ech Lëtzebuergesch schwätze kann/ka schwätzen.
  that I Luxembourgish speak can/can speak
  「私がルクセンブルク語を話せること」

過去分詞を支配する助動詞は、それに先行することができないのに対し、不定詞を支配する助動詞は、それに先行する語順も後続する語順も許容されます。助動詞が先行する語順は、ドイツ語よりもオランダ語と近いかもしれません。


 ルクセンブルク語は、30年前に言語に昇格したばかりの新しい言語ですが、着々と成長を続ける頼もしい少数言語です。ルクセンブルクは、その総人口の約45%を外国人が占めていますが、2008年の法律によって、一定のルクセンブルク語語学力を有することが国籍取得の条件として定められるなど、非母語話者がこの言語を学ぶための動機が増えてきています。それに伴い、語学学校や語学教材等も充実してきています。これらの非母語話者がルクセンブルク語を話すことによって、言語そのものが影響を受けて変質する可能性も考えられますが、それも含めて、今後どのように発展していくのか目が離せない言語の一つといえます。


※1 ohg. old high german「古高ドイツ語」、mhg. middle high german「中高ドイツ語」。(本文に戻る)


《西出佳代:北海道大学大学院文学研究科専門研究員(2014年掲載)》


★ ルクセンブルク語、ドイツ語、フランス語を公用語とする多言語併用国家ルクセンブルクの言語状況について詳しくは、ことばと暮らし「ルクセンブルクの言語状況」をご覧ください。