地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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「世界の文字」について

Unicodeの普及に伴い,多言語環境を整えることが一昔前に比べ飛躍的に容易になりました。

古代から現代まで,文化的・宗教的・歴史的・学術的観点で重要な意味をもつさまざまな言語と文字を,ご覧くださる方がご自身の手で書き記す際に,このページが何らかのヒントを提供できる契機ともなれば,と念じています。

ご意見やご指摘などをお聞かせください。

稲垣徹
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世界の文字

アルバニアの文字


アルバニア語は,インド・ヨーロッパ語族の中で同一の語派に属する言語がなく,アルメニア語などと同じく,1言語で1語派の扱いを受けている言語である。アルバニア人は,民族名としてこの名称を用いず,shqiptar 「アルバニア人」, Shqipëria 「アルバニア」,shqip 「アルバニア語で」などを用いる。アルバニアの中央部を東西に貫流するシュクンピン川を挟んで,アルバニア語は大きく二つの方言群―北のゲグ方言と南のトスク方言―に分かれる。ゲグ方言で記された文献はすでに16世紀半ばに書かれたものが残っている。少し遅れて,シチリアに移住したアルバニア人,すなわちアルバレシュ人の言葉(彼らの出身はトスク方言圏である)による文献,続いてトスク方言で書かれた文献が残されている。 [1]

初期アルバニア語書記法

アルバニア北部のゲグ方言で書かれた文献の文字は基本的にラテン文字であり,それに若干のキリル文字やギリシア文字が加えられることもあった。このカトリック教圏で用いられたアルファベットは「古北方アルファベット(The Old Northern Alphabet, alfabeti i vjetër i veriut)」と呼ばれる。
アルバニア中部および南部では,15世紀後半に始まるオスマン・トルコ支配下で,ギリシア正教,あるいは,ムスリムへの所属などの条件の中で,公用語はトルコ語またはギリシア語と定められ,アルバニア語で記録が書かれ,あるいは書物が印刷される際にも,トルコ式アラビア文字,あるいはギリシア文字が用いられた。アルバニア語の音を表すために,それに若干の変更・訂正を加えた表記もあった。

アラビア文字


ギリシア文字

サンプルテキスト:トスク方言


出典:Faulmann (1880) [2] Free Font: Old Standard

アルバレシュ

15世紀から16世紀にかけて,多くのアルバニア人が中部および南部アルバニアから,イタリアのカラブリア地方およびシチリア島に移住した。彼らはアルバニア人だけの集落を形成し,アルバレシュ人と呼ばれ,16世紀末からは,アルバレシュ・アルファベット Arvanitika / Arbëreshと呼ばれる独自の表記法を用いた。


サンプルテキスト


出典:Christusrex.org Free Font: FreeSerif

統一文字への動き

18世紀の後半に始まるアルバニア人たちの民族的覚醒,民族統一と独立を求める働きは文化面にも反映し,アラビア文字やギリシア文字によらない独自の文字を創造しようとする気運が,中部,南部の都市およびアルバニア人移住者の多い国外の都市で高まることになった。各地で独自のアルファベットが案出されたが,その使用範囲は一つの町から1地方に及ぶ程度の狭いもので,広く普及するには至らなかった。最終的に,ラテン文字によるアルファベットが制定されるまでに考案され,一部の地域で用いられたアルファベットには次のようなものがある。

エルバサンのアルファベット

18世紀の半ばに中部の町エルバサン(Elbasan)で考案されたアルファベットは40文字からなり,普通「エルバサンのアルファベット(alfabeti Elbasanit)」と呼ばれている。このアルファベットで書かれた祈禱文や福音書の訳がのこされている。グラゴル文字を自由に改変し,単純化した文字が主体となっているという説が有力である。 サンプルテキスト

ベラトのアルファベット

ほぼ同じ頃に考案され,南部の町ベラト(Berat)を中心に用いられたアルファベットは,上述のエルバサンのアルファベットと同じく,グラゴル文字を土台にしたものと考えられ,37文字からなる。

ジロカストラのアルファベット

18世紀後半から19世紀初頭にかけて,南部の町ジロカストラ(Gjirokastër)で用いられた22文字からなるアルファベット。当地の有力者Veso beyによって考案されたという。


Free Font: Veso Bei

ヤン・ヴェララのアルファベット

文学者でもあったヴェリの侍医ヤン・ヴェララ(Jan Vellara 1771-1823)の考案したアルファベットは,30文字からなる。このアルファベットで書かれた文法書(1801年)の断片をはじめ,書簡その他の記録も残されている。このアルファベットは,ラテン文字とギリシア文字に自由な改変を加えて作られたものである。

テオドル・ハジフィリビのアルファベット

アルバニア南部で考案されたアルファベットのうち最も普及したのは,18世紀末に作られたテオドル・ハジフィリビ(Theodor Haxhifilipi)のアルファベット Todhri alphabet で,エルバサンの商人層の家庭内の記録,帳簿などに広く用いられた。ラテン文字,ギリシア文字の筆記体,グラゴル文字やキリル文字を自由に改変・修正して作られたものと考えられている。

ビタクチェ文字

1840年代にルーマニアのブクレシュティ(Bucureşti ブカレスト)に亡命していた文人ナウム・ヴェチルハルジ(Naum Veqilhardhi)は,アルバニア各地の宗教を異にするアルバニア人すべてに受容されうる独自のアルファベット,既存のアルファベットと共通点の少ない独創的なアルファベットを案出し,1844年にこれを同地で印刷した。これは,アルバニア語で最初に印刷されたアルファベット表となった。これがいわゆるビタクチェ文字(alfabeti i Büthakukje)である。この文字は南部の地域や各地に散在するアルバニア人やアルバレシュ人にも大きな反響を呼んだが,印刷上の困難などから予期されたようには普及しなかった。


サンプルテキスト


出典:Faulmann(1880) Free Font: Buethakukye

コンスタンディン・クリストフォリジのアルファベット

1870年代に,イスタンブールに在住するアルバニアの知識人たちは,アルバニア人すべてに共通の統一アルファベットを制定するための委員会を組織し,多くの討論,会合を重ねた。しかし,参加者の宗教,出身地,身分,政治的見解などが異なるため容易に意見が一致せず,参加者がそれぞれに独自のアルファベット案を提出した。そのなかで,1音1字を主張する論者の一人,コンスタンディン・クリストフォリジ(Konstandin Kristoforidhi)は,ラテン文字を中心に,ギリシア文字や補助符号を加えたアルファベットを提案した。



出典:ゲグ方言


出典:トスク方言

イスタンブールのアルファベット

1879年の初め,サム・フラシャリ(Sam Frashëri)を議長とする文字制定委員会は,70年代に提出された種々のアルファベット案を考慮しながら,統一アルファベットを定め,それはイスタンブールのアルファベット委員会によっても正式に承認された。これによって,アルバニア最初の統一アルファベット「イスタンブールのアルファベット(Alfabeti i Stambollit)」が制定された。これは1音1文字を原則とし,ラテン文字を基本にしたアルファベットで,不足する部分はギリシア文字,さらにラテン文字を改変した特殊な文字,補助符号をつけた文字で補った36文字からなるアルファベットである。 (後述) しかし,民族国家が存在しない状況の下,このアルファベットはアルバニア人の居住する全地域,全階層にわたって受容されるには至らなかった。 この時期に,フランス語タイプライターの利用を前提としたBashkimiアルファベットが提案された。 (後述)

統一アルファベット

1908年7月に青年トルコ党の反乱が成功し,トルコ帝国内の少数民族にも自治権が認められるに及んで,アルバニア人の民族運動は急速に発展した。その中で,アルバニア語の単一アルファベットを制定するための会議がマケドニアのマナスティル(Monastir)で11月に開かれた。しかし,最終的に単一のアルファベットを制定することができず,19世紀のイスタンブール・アルファベットと,会議で提案された完全なラテン文字アルファベット(ただし,ç,ëと連字 ll, rr, dh, gj, nj, sh, th, xh, zh を含む)の両アルファベットの並存を認めるという決定がなされた。
1912年にアルバニアの独立が宣言された時には,すでにマナスティルのラテン文字アルファベットがより広範に普及しており,イスタンブールのアルファベットは急速に廃れていった。このラテン文字アルファベットが,現在のアルバニアのアルファベットである。1972年にトスク方言を主体とした標準アルバニア語の正書法が制定された。

現行アルバニア語(トスク方言)テキスト


出典:世界人権宣言1条

入力方法

アルバニア語用キーボードを設定すると,タスクバーにはISO言語コードISO 639-1の言語コードでアルバニア語を表す「SQ」が表示される。【参考】 多言語環境の設定

関連リンク・参考文献