パラー語楔形文字 英 Palaic cuneiform writing

パラー語
紀元前 2 千年紀のヒッタイト時代に,小アジアのおそらく北西部で行われていた言語で,印欧アナトリア語派に属する言語の 1 つ。パラー語(Palaic)には,ヒッタイト語と共通する特徴もみられるが,それ以上に,ルウィー語との共通点が多く,言語的には,ヒッタイト語よりも,むしろルウィー語に近いように見受けられる。しかし,パラー語には,ヒッタイトの先住民族言語とされるハッティ語の影響がかなり認められ,この点は,ルウィー語と異なっている。→ 松本
文字体系
パラーの書記法はヒッタイトの書記法と同様に,表音文字,表意文字,限定詞の類別がある。パラー文書に使用された楔形文字の形は,ボアズキョイ出土のヒッタイト楔形文字の古期の字体に類似している。
文字資料
以下にあげたテキストは,その内容がヒッタイトのテリピヌ神話に類似していることから「神話文書」として分類されているが,わずか 3 枚の粘土板しか発見されていないために全体の筋を読み取ることは不可能である。ヒッタイトのテリピヌ神話は,テリピヌ神が怒って姿を隠すが,蜜蜂が彼を捜し出してその体を刺すと,彼はさらに怒ってしまうが,ついに彼が姿を再び現すと,地上に作物の実りが蘇るという話である。パラー語では,テリピヌ神話の蜜蜂の役目を鷲がしているようである。→ 大城・吉田 → 写真・翻字 Carruba


日本語訳
(6)そして神々はそれを食べるが,満足に食べることはない。飲むが,満足に飲むこともない。(8)太陽神自ら叫ぶ,「一体これはどうしたことか。」彼ら[神々]は食べても,満足に食べることもなく,飲んでも満足に飲むこともない。(10)鷲が帰っていた。彼[姿を隠した豊饒神」を(みつけて)追い立てよ,追い立てよ,ḫ……を追い立てよ。(13)……すれども,彼をみつけだすことはない。彼を(みつけて)追い立てよ。彼の角を(みつけて)追い立てよ。(14)ルフツィナの町のかん木の茂みに彼をみつけた。そして彼を追い立てた。しかい彼は決して動かなかった。そしてまた彼を……(16)……追い立てた。さて,角だ。さあ,どうだ。(17)さあ,彼のとこれへ行け。さあ行け。
参考サイト
注
- 大城光正, 吉田和彦(1990)『印欧アナトリア諸語概説』(大学書林)
- 松本克己(1992)「パラー語」 『世界言語編(下1)』(言語学大辞典,第3巻,三省堂)
- Carruba, Onofrio (1970)Das Palaische : Texte, Grammatik, Lexikon/ (Wiesbaden : O. Harrassowitz)
[最終更新 2018/10/20]