地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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アラビア語

 アラビア語は世界の大言語の一つです。話者人口は2億人とも3億人とも 言われます。主に話されている地域はアラビア半島から地中海南沿岸と 北アフリカ諸国を経て大西洋岸に至る誇大な地域です。それだけに方言 もたくさんあります。また方言間の差異も大きいのですが、一方で、ア ラビア語はコーランのことばですから、その宗教的な統合力が強い。そ のために、コーランのことばであるアラビア語書きことばと地域の方言 的話し言葉とが分裂します。標準アラビア語と言われるのは、この書き ことばでアラブ世界を統一するコーランのことばを指します。これを フスハーと呼びます。これでアラブ世界のどこへ行っても話が通じるし、 土地の新聞も読めるということになります。一方、地域ごとにたくさん ある方言はまとめてアーンミヤと言われて、エジプトのアーンミヤやア ルジェリアのアーンミヤのような大きな方言が区別されるだけでなく、 その地域地方で独特の精神的価値をもった小さなアラビア語方言が地方 の文学や芸能を支えていたるところで生きています。

 アラビア語は古いことばです。もともとヒトがことばを使い出したと 思われる地域に残った言語ですから、アラビア語が属するセム語族 (アッシリア・バビロニア人、フェニキア人、ヘブライ・ユダヤ人、 アラビア人などの言語を含む言語集団)自身が全体として古い言語で、 紀元前3000年頃から象形文字の記録が見られます。この中の方言では、 アラビア半島南部で発見された碑文が今のところ最も古いと言われて います。コーランのことば、古典アラビア語はアラビア半島北部地域で 6世紀末に成立したとされています。その骨格は、後に近隣諸言語 との接触によって表現を増やしてきたとはいえ、ほぼコーランのことば として今も伝えられているものです。

 アラビア語の文字は28文字、ハムザと言われる特別な文字以外は 音素を表します。文字はすべて子音を表し、右から左へ分かち書きを します。母音は a、I、u の三つで、普通は表記されず、子音の上下に 符号として附記します。日常の挨拶のことばでアラビア文字を見てみま しょう:

 アラビア・インド数字のアラビア式の書き方を見ましょう。これが 元祖アラビア数字です。

 アラビア語の文法は日本語的な常識とはかなり違います。その中か ら目立つ特徴をいくつかあげてみましょう。

1)p、t、k のうち、音素 p がありません。また喉の奥を使う音が多く、 また口蓋化した子音が平板な音と対をなして使われます。しかし子音と 母音が組になって規則的に使われ、文語ではアクセントが語末から3番目 の音節に置かれるので、聞きやすい音の配列ができます。

2)名詞にはモノ的な語と人的な語とを区別するようです。人的な語に は「学生、商人」など、モノ的な語には「石、犬」などが含まれます。 また名詞には文法性があって「目、手」などの対になる身体の部分は女 性名詞だと言われます。名詞は文語では文法性、単複、限定性などの別 によって語尾変化します。さらに、多くて3つ(主格、対格、所有格)の 格標識をもちます。

3)一番目立つのは動詞の形態です。動詞の多くは3つの子音を語幹と します。例えば「書」にかかわる動詞語根は k-t-b- で、この子音の後 に母音 a、u、i が入ります。kataba は「彼は書いた」の意味の文を 作ります。このような3語根動詞が基本になって、子音の間に入る母音 を変えて、時制、アスペクト(完了:不完了)、態(使役など)などの いくつもの動詞変化形ができます。このような動詞変化形が原則として 10形あります。また特別な語尾をつけると、分詞や動名詞や人名詞、動 作名詞が派生します。

4)アラビア語では動詞文と名詞文を区別します。動詞文では原則とし て動詞変化形から文が始まります。一方で名詞・代名詞で文が始まると、 名詞文的な状態が表現されます。連体修飾は修飾節が後ろ置きです。こ のようにアラビア語の語順の規則は決して簡単ではありません。

 最近はアラビア語が学びやすくなりました。『エクスプレス・アラ ビア語』(岡真理・奴田原睦明、白水社)も出ましたし、NHKのアラビア 語講座もあります。辞書も初級用から詳細なものまで数点出ています。 まず文字を覚えて、習字を習うとアラビア語に親しみが涌くことでしょ う。

《金子亨:言語学(2008年掲載)》