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【地球ことば村・世界言語博物館】

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世界の文字

満洲文字 英 Manchu script


満洲文字は,清朝(1636~1911)を建てた満洲人が満洲語を表記するために,蒙古文字を改良して製作した文字。当初は,満洲語も蒙古文字で表記された―これを無圏点満洲文字と称する―が,両言語は音韻体系を異にする上,1 文字多音価という根本的な欠点をもつ蒙古文字で満洲語を表記するのは不都合な点が多かったので,清の太宗ホンタイジは 1632 年に文字の改良をダハイに命じた。ダハイは,蒙古文字の傍らに圏や点を添え,あるいは既存の字形を少し改めることで,多音価性を解消するとともに,新たに漢字音を表記する文字を考案したと伝えられる。[樋口]

清朝は,勅書等を満漢両語で併記する建前であったから,満洲文字は清朝の統治した地域全域で使用されていた。ただし,満洲語を使用するのは満洲人のみで,しかも,彼らは次第に漢人に同化して満洲語を使用しないようになった。現在では,満洲人の子孫にあたるシボ族の用いる言語が基本的には満洲文字と同じシベ文字で表記される。

文字構成

満洲文字は,母音字・子音字・漢字音表記用の文字からなる。字母に添える点の有無は一見複雑に見えるが,1 つの文字連続に 1 つの読み方しか許さないという範囲内で,必要最低限にしか点を加えないという原則は貫かれており,余剰性がない。この点ではきわめて合理的であり,満洲語表記のためには蒙古文字よりはるかに実用的で優れた文字である。

母音字

/a/ の語末形は,先行する子音が /b,p/ と漢字音表記用の文字の場合と,その他の文字によって異なる字形を用いる。〈語例 [1]〉
/a/ と /e/ は語中においては点の有無により区別されるが,先行する子音が /t,d,k,g,h/ の場合に限り,無点の /e/ (/a/ と同形)が使用される。語末形は,先行する子音が /t,d/ の場合,/k,g,h/ の場合,/p,b/ の場合,それ以外で区別される。〈語例 [2]〉
/i/ の語中形は,母音が先行する場合と,子音が先行する場合で使い分ける。〈語例 [3]〉
満洲語には 3 種の円唇母音があるが,このうち /o/ と /u/ は点の有無で,残る /ū/ には新しい字形を創案することで,1 文字多音価を回避している。/o/ の語中形は,/p,b/ が先行するときの字形と,それ以外の場合で異なる。語末形は,/b,p,k,g,h/ が先行するときの字形と,それ以外の場合で区別される。〈語例 [4]〉
/o/ と /u/ は点の有無で区別される。/u/ の語中形は,/k,g,h/ が先行する場合の字形と /p,b/ が先行する場合の字形,それ以外の場合の字形が区別される。語末形では,単音節語で初頭音が /t,d/ の場合か,音節数の多寡を問わず /k,g,h/ に後続する場合,また,多音節語の末尾で /t,d/ が先行する場合,/p,b/ が先行する場合,あるいは,先行子音の如何を問わず単音節語の末尾に立つ場合の字形に区別される。〈語例 [5]〉

母音字母

語例

子音字

/n/ の語中形のうち無点の字形は子音字が後続する場合に用いられ,これ以外の場合は有点の字形が用いられる。〈語例 [6]〉
母音調和に付随した子音調和を反映したものとして,/k,g,h/ には後続する母音の違いに応じた各々 2 系統の字形をもつ。〈語例 [7]〉
/t,d/ は点の有無により区別され,/k, c, b/ 同様に,後続する母音に応じて 2 系統の字形をもつ。〈語例 [8]〉
/f/ は後続母音が a,e の場合と他の母音の場合とで区別される。〈語例 [9]〉

子音字母

語例

漢字音のための字母

漢字音は,単音節で表記され,音節末の /n/ と /ng/ は固有の満洲文字を使用するので子音字母には語頭形しかなく,母音字母は語頭形を欠く。〈語例 [10]〉


語例

文字例

御製五体清文鑑 巻1 <コマ番号 2> [国立国会図書館 インターネット公開/ 出典]
清朝の康煕中葉から乾留末に及ぶおよそ 1 世紀の間に、数種の清文鑑と称する対訳辞典が勅修された。清文鑑とは,中国,清朝の満州語とモンゴル語,漢語などとの対訳辞書の総称。種々ある満州語辞典のなかで代表的なものである。何度も編纂されたが,康煕 47 (1708) 年に康煕帝の命によりマチ (馬斎) ,マルガン (馬爾漢) らの手で編纂された本文 20 巻の『御製清文鑑』が最初で,これは満州語の単語を満州語で解釈し,天文部,時令部などに大別分類して並べたものである。つぎに,満・蒙の 2 体,満・蒙・漢の 3 体,満・蒙・漢・蔵の 4 体など次第に字体を増し,最後に回紇語(ウイグル語)を加えて,5 族の言語―満・蔵・蒙・回・漢―が全部包括された。西蔵語と回紇語とには満洲字の標音を施している。満・漢語・蒙古語とには標音を欠いているが,すでに,満・蒙・漢の『三合便覧』という書物も出ていた。


満・漢・朝の対訳辞書漢清文鑑(乾隆40年[1775]頃)

漢清文鑑 <コマ番号 32> [国立国会図書館 インターネット公開/ 出典]

朝鮮語訳を付した満洲語の読本として『清語老乞大』(乾隆30年[1765])

清語老乞大 <コマ番号 61> [国立国会図書館 インターネット公開 /出典]

ユニコード

満洲文字は,モンゴル文字ユニコード領域 U+1288..U+187F に収録されている。フォントは,Microsoft Windows にインストールされている “Mongolian Baiti” が使用できる。また,www.daicing.com には,満洲文字に限定したフォントがあり,Downloads から “Daicing Pack the Lite - 2008-09-27” をダウンロード・インストールして得られる。


関連リンク・参考文献

[最終更新 2022/06/18]