nƂΑ
言語学者・文化人類学者などの専門家と、「ことば」に関心を持つ一般市民が「ことば」に関する情報を発信!
j[
悤

【地球ことば村・世界言語博物館】

NPO(特定非営利活動)法人
〒153-0043
東京都目黒区東山2-9-24-5F
TEL:03-5798-2828
http://chikyukotobamura.org
info@chikyukotobamura.org

世界の文字

モンゴル系諸語の文字

歴史上モンゴルで使用された様々な文字が寺院の入り口に書かれている。両脇はパスパ文字,中央上から,ランジャナ文字,チベット文字,ソヨンボ文字,およびモンゴル文字。【出典】 Mongolian alphabets
チンギス・ハーン以前,文字を持たなかったモンゴル人は,当初ウイグル文字と全く同じ「モンゴル文字」を使用した。16 世紀後半から,チベット語を介して,大量の仏典がモンゴル語に翻訳され,あるいは,古い翻訳が改訳されて,多数のモンゴル語の写本や木版の経典が作られたが,その際,モンゴル文語の字形や綴りが統一され,文書語として規範化が進めれた。この時代以降の,主として,仏典に用いられる規範化された言語を,「古典期」(classical)モンゴル文語とよび,これに対して,それ以前のものを,「前古典期」または「先古典期」(preclassical)モンゴル文語とよんで区別している。
ウイグル文字は,1 文字の音価が必ずしも 1 つではないという欠陥があったが,それはそのままモンゴル文字にも引き継がれており,その意味ではモンゴル語の表記に最適とはいえない。そこで,モンゴル文字を改良したトド文字,チベット文字を利用したパスパ文字などが考案されたが,いずれも主流とはならなかった。現在のモンゴル国では 1946 年以降,キリル文字を改良した「現代モンゴル文字」を使用し,中国のモンゴル族は伝統的な文字を使い続けている。

このほかに,モンゴル族自らが,また,モンゴル族と接触した他の民族が,漢字,アラビア文字,チベット文字,満州文字,ハングル,ローマ字,ロシア文字などの文字で,さまざまな時代にさまざまな地域で記録したモンゴル語の資料が,今日に伝えられている。

モンゴル語族に属する言語としては,モンゴル国と中国の内蒙古自治区のモンゴル語,およびロシア連邦のブリヤート自治共和国に行われるブリヤート語が比較的よく知られている。それ以外にも下表に挙げる諸言語もモンゴル語族に属し,これらの言語はすべてひとつの起源にさかのぼる。【出典】 栗林 (2000)

モンゴル系諸語
言語名主な居住地話者数(概数)
モンゴル語モンゴル国・中国内蒙古自治区等400万~500万
ブリヤート語ブリヤート自治共和国30万人
カルムイク語カルムイク共和国14万人
ダグル(達斡爾)語中国内蒙古自治区8万人
ドゥンシャン(東郷)語中国甘粛省20数万人
モングォル(土族)語中国青海省10数万人
バオアン(保安)語中国甘粛省・青海省1万人
シラ・ユグル(東部裕固)語中国甘粛省3千人
モゴール(莫戈勒)語アフガニスタン数百人

モンゴル系諸語(諸民族)主要分布図
【出典】 栗林(1992)

目次


モンゴル(蒙古)文字
ウイグル式蒙古文字
Folded Script
パスパ文字
ガリック文字
トド文字
ソヨンボ文字
横書き方形文字
ワギンダラー文字
ラテン文字
キリル文字
漢字
アラビア文字
チベット文字
満州文字
ハングル
モンゴル文字の入出力
関連リンク
参考文献


モンゴル(蒙古)文字 Mongol bichig, Mongolian script


モンゴル文字は,ウイグル文字が,1 文字の音価が必ずしも 1 つではないという欠陥をそのまま引き継いだ不完全な表単音文字で,各字母は,語内のどこに位置するかに応じて字形を異にする。原則として 1 語は一続きで記し,分かち書きする。縦書きであるが, 1 語を一続きで表記するため,あたかも中央の線の柱があるかのような外観を呈する。行は,日本語などとは逆で,左から右へ進む。なお,文字の配置は「十二字頭」と称される伝統的な配列順序により,これは,インドの音韻学で採用されている配列を応用したものである。【出典】 樋口(2001)「蒙古文字」

母音字


子音字


補足説明


γ / g (г)

キリル文字では г という同じ文字形で表される,モンゴル文字のγ と g は,母音の種類に従って使い分けて表記される。γ は,q に2つの点を付した形をしており判別的である。ところが, g には,点など識別するものがなく,k と全く同じ形を用いる。γ の2つの点は,音節末の位置では省略され書かれない。γ と g は共に,子音として発音される他,母音間の位置では単語によって,長母音を表す記号としても機能し,その場合発音されない。

モンゴル文字例文

下記例文は,ユニコードフォント Mongolian White を使用して Microsoft Word 2013 上で出力したものである。後述の「モンゴル文字の入出力」を参照。


キリル文字表記
“Банкнаас хоёр жилийн өмнө хүүтэй зээлсэн гурван сая төгрөгөө цагаан сарын өмнөхөн арай гэж төлж дуусгалаа” гэж хүү ньхэлэхэд, аав нь : “Болж дээ, миний хүү. Өргүй бол баян Өвчингүй бол жаргал гэдэг чинь их үнэн үг шүү. Үнэнийг хэлэхэд, чамайг өр зээлтэй байхад миний сэтгэл тун тавгүй байсан шүү” хэмээн нэлээд баярласан байдалтай хэлэв.
日本語訳
「銀行から二年前に利子つきで借りた300万トグルグを旧正月直前にやっと返済した」と息子が言うと、彼の父親は「よかったな、おまえ。〈借金がなければ金持ち、病気がなければ幸福〉というのは全くほんとうのことだぞ。実を言うと、おまえが借金があるとき、おれはとても不安だったぞ」とかなり喜んだようすで言った。
【出典】 塩谷(2011)

ウイグル式蒙古文字 Uyghur-Mongol script


中国の正史である『元史』などが伝えるところでは, 1203 年ウイグル族ナイマン部を攻略したチンギス・ハーンは,捕虜とした宰相タタトゥンガ(塔塔統阿)が国璽を携えているのを不審に思い,詰問して始めて印璽や文字の存在・用法を知り,乞うて蒙古人子弟に文字を教えさせたという。『長春真人西遊記』には, 1222 年に丘処機がチンギス・ハーンに長生の術を講じたが,それを阿里鮮なる書記がウイグル文字で記録したという記事がある。当初は,もっぱらウイグル人あるいはウイグル文字に通じた西域人が書記として登用されたが,阿里鮮もその一人だったのだろう。やがて,蒙古人自身この文字で書写するようになる。これが前古典期蒙古文字で,ウイグル文字と基本的には同じ字形であることから「ウイグル式モンゴル文字」とも呼ばれる。


【出典】Poppe (1964)

左図は,13 世紀中期の篆体,中央は,現在の印刷書体の例である。【出典】 蒙古文字 右図は,ウイグル式モンゴル文字を代表するもので,14 世紀のものと推定される木版本の漢蒙対訳『孝経』である。【出典】 樋口「蒙古文字」

Folded script


この文字は,13 世紀中頃にウイグル文字のバリエーションとして使われ,現在でもまだ時折サインや書籍で用いられる。


【出典】 Эвхмэл бичиг (folded script)

パスパ文字 Phags-pa script


パスパ文字は本来,フビライ汗の世界帝国の文字とされたが,フビライの治世の間と元代全般(1368 年まで)を通してもせいぜい散見して見られるにすぎない。これが記されている文書には,モンゴル・中国地域にみられる碑文資料,公的牌子や印章で,印刷されたものもある。他の地域では不連続的に使用されたパスパ文字ではあるが,チベット仏教を信仰するモンゴル人が多い地域を含む,チベット文化圏では装飾文字として,あるいは序列や宗教的階層を示す印章にも使用され続けた。朝鮮皇帝世宗が,漢字に対して,ハングル(諺文)を作る際に,パスパ文字に部分的に啓示を受けたとする説もある。しかし,世宗はパスパ文字の不具合であいまいともなる点を捨像し,多くの点で整合を行った。【出典】 Kuijip (2013), ⇒ パスパ文字

【出典】 玄中寺碑文拓本

ガリック文字 Galik alphabet


外国語音を転写するための文字の意。とくに蒙古文字を,サンスクリット語(梵語)音,チベット語音等を正確に転写できるように改良した文字を指す。 1587 年に,モンゴル人僧侶アヨーン・グーシ(Ayusi güsi)が考案したと伝えられている。アリガ(Ali γali)とも呼ばれる。

16 世紀後半から,チベット仏教がモンゴルに再導入され,梵語音やチベット語音の正確な表記が求められるようになるが,旧来の蒙古文字だけではこの要求に応じられなかった。 17 世紀になって製作された「トド文字」は蒙古文字の体系を大々的に改良してこの要求に応える試みであり,一方,「ソヨンボ文字」は蒙古文字を廃止してまったく原理を異にするインド系文字を導入することで,この要求を満たそうとしたものである。これらに対して,「ガリック文字」は基本的には旧来の蒙古文字の体系内で,新たな字母を付け加えあるいは表記法に工夫を加えることで,この要求に応じようとしたものである。【出典】 樋口康一(2001)「蒙古文字」

母音文字


<子音文字


トド文字 Todo bichig(オイラート文字 Oirat alphabet, Oirat clear script)


オイラト族は,17 世紀の中頃までモンゴル文語を書き言葉として使用してきたが,1648 年,ホシュート部出身出身の高僧ザヤ・パンディタはモンゴル文語の表記上の曖昧さと,口語から乖離していた綴りを解消するために新しい文章語を考案した。彼は,モンゴル文字の一部の字形を変えたり,補助符合を加えたりして文字の種類を増やし,また口語を表記しやすい新しい綴りを採用した。この文字は「トド(明瞭な)文字」と呼ばれ,トド文字で綴る新しい書き言葉は以後オイラト族の間に広まり「オイラト文語」と呼ばれるようになった。オイラト文語は,現在でも中国新疆ウイグル自治区のオイラト族の間では使われている。

カルムイク共和国では 1924 年,トド文字に代わってキリル文字に基づく書き言葉が採用された。しかし,1920 年代にソ連邦の諸民族の間で高揚したラテン文字化運動に呼応して 1932 年にはラテン文字の正書法に移行し,さらにその運動が方向転換した 1937 年には再びキリル文字の正書法に戻るという二転三転の歴史を経ている。【出典】 栗林(2000)

トド文字一百条拡大
1980 年代初期から新疆でのモンゴル語文字改革は,「社会主義条件下でモンゴル民族の 1 民族 2 文字使用の現象を次第に終結させるべき」で,トド文字を廃止するという政治的理念によるものであった。この,文字改革における現実問題について,内モンゴルでは,通用しないホドム文字(モンゴル文字)の未来に対する懸念が大きい。具体的には,1)「言語的実態」の問題として,方言と文字表記の違いが大きいため,ホドム文字は読むための文字としてはよいが,トド文字に替わる文字とはならないという認識が強い,2)「社会的実情」の問題として,新疆では,ホドム文字よりもウイグルやカザフの文字を知っている方が実生活に有利である,3)「文化的距離」の問題として,新疆のモンゴル人はオイラト文化への愛着とホドム文字に対する違和感をもっている,が指摘されている。。【出典】 フフバートル(2012)

母音文字

7 種の短母音を表記するための 7 種の単字母がある。二重母音や長母音は,これらを連書するか,あるいは,長母音記号を付加することで示される。語末形に 2 種類あるのは,分離形と連続形である。i には,k, g, b 等に続くときの異種がある(下記,単語例 1) “ bi ” 参照)。モンゴル文字と異なり,4 種の円唇母音は,原則としてあらゆる位置で区別して表記することができる(単語例 2)参照)。長母音記号を使用して表記するのは a, e. i, o, u の 5 種である。一方,単字母を連書して表記する u, ü の 2 種は各々 uu, üü と転写するのが慣例となっている(単語例 3) 参照)。


子音文字

子音文字 n の点の有無は,音節末では無点の字形が,それ以外のばあいは有点の字形が使われる。x と k, γ, g は,後続母音の違いに応じて使い分けられる。これは,母音調和の結果として生じる子音調和が表記面に反映されたものである。なお,音節末ではすべて q で表記される。モンゴル文字とは異なり,あらゆる位置で t, d が区別される(単語例 5) 参照)。【出典】 樋口(2001)「トド文字」


単語例


ソヨンボ文字 Soyombo bichig


サンスクリット語 svayambhu (「自在」)の転訛。チベット語の呼称 rang-byung snang-ba も同義。初代のクーロンの活仏オンドゥル・ゲゲン(Öndür gegen 1635~1723)が,インド系のランジャナ文字を母体として 1686 年に考案した文字である。16 世紀後半以降のチベット仏教の再導入に伴い,モンゴルでは仏典の正確な翻訳やサンスクリット語音,チベット語音の正確な再現が急務とされた。その要請に応えるため,モンゴル語だけでなく,サンスクリット語やチベット語も表記できるよう工夫されている。⇒ ソヨンボ文字

【出典】 Preliminary Proposal to Encode the Soyombo Script in ISO/IEC 10646

モンゴル横書き方形文字 Mongolian horizontal square script


モンゴルの学者僧 Zanabazarは, Soyombo 文字とともに,パスパ文字に似た(ただし水平方向に記述する)方形文字を,チベット文字を基に創案した。

【出典】 Xäwtää Dörböljin, or The Mongolian Horizontal Square Alphabet for LaTeX2e

ワギンダラー文字 Vaghintara script (ブリヤート文字)


この文字は,ブリヤート人の仏教僧で政治活動家としても知られるアグワン・ドルジエフ(Агван Доржиев)が 1905 年に作成したもので,ワギンダラーは製作者アグワンのサンスクリット語名に由来する。この文字は,蒙古文字を基にして一部の字形を変えたり,識別の点や線を加えたりして,1 文字 1 音の原則で読みやすさと書きやすさを実現しようとしたもので,この点ではトド文字のやり方と軌を一にしている。ドルジエフは,当時,仏教も蒙古文字も普及していなかったバイカル湖西部のブリヤート族を教化するためにこの文字を考案したといわれるが,普及するには至らなかった。【出典】 樋口(2001)「蒙古文字」

ラテン文字からキリル文字


ソ連邦において 1920 年代後半から始まった諸民族の書き言葉をラテン文字化する運動は,1930 年代の前半に大々的な高まりを見せた後,1930 年代の後半に入ると一転してキリル文字に移行する方向へと方針転換され,1940 年の時点ではすでにキリル文字への移行を完了していた。ソ連邦内のモンゴル系の言語をみても,ブリヤートとカルムイクではいずれも 1931 年にラテン文字に移行した後,カルムイクでは 1938 年に,またブリヤートでも 1939 年にキリル文字に移行していた。

これに対して,モンゴルの党・政府は 1930 年 2 月にモンゴル文字からラテン文字への移行の方針を決めたあと,10 年を経た 1940 年 3 月にこの方針を再確認して本格的な移行の準備に入り,翌 1941 年 2 月 21 日にはラテン文字の字母と正書法の基本方針を最終的に決定した。しかし,その 1 ヶ月後の 3 月 25 日には,ラテン字化の計画を捨て,代わりにキリル文字に移行する決定が行われた。ただし,この決定はただちに実施されたわけではなく,1945 年 5 月 18 日に再度の実施決議が出され,翌年 1 月 1 日より学校教育・公務・出版物等で全面的にキリル文字が使用されることになった。【出典】 栗林(2007)

ラテン文字 Latin alphabet


例文:『半識字者学校用練習問題付正書法教本』(カルムイク語,ラテン文字)


【出典】 荒井(2006)

キリル文字 Cyrillic alphabet

モンゴル語字母


基本母音
а / о / у, и, э / ө / ү の 7 母音は,基本母音と呼ばれ,а, у, о は男性母音,э, ө, ү は女性母音,и は中性母音に分類される。男性母音と女性母音は互いに対立的に存在し,伝統的なモンゴル語語彙では,1 語中にそれらが混ざり合って現れることはない。
短母音と長母音
原則的には基本母音を 1 つ綴ったものが短母音を表す。また,基本母音をそれぞれ,аа, оо, уу, ээ, өө, үү, ий のように重ねて書いたものが長母音を表す。
補助母音
つぎの я, е, ё, ю, ы, й を補助母音と呼ぶ。単語や語中の位置によって,複数の音価をもつ。
二重母音
次のものが二重母音である。ай, ой, уй, эй, үй : ау, уа
母音調和
モンゴル語は膠着語である。語幹に接尾辞を付加することで,語を派生したり,活用する。その際,付加される接尾辞の母音は,基本的には初頭音節における母音の性に準じる。

例文:カルムイク語キリル文字

The Tower of Babel (Genesis 11: 1-9)

漢字 Chinese characters


現存する『元朝秘史』は,漢字を用いてモンゴル語を音写したものである。この漢字音写本が拠った直接の底本が,ウイグル文字で書かれたものであったのか,それともパスパ文字で書かれたものであったのかということが議論されてきた。『元朝秘史』。下図は,『元朝秘史』(四部叢刊本)の巻一,第一葉。漢字音写モンゴル語原文,その右横に語ごとに付された漢訳(傍訳),さらに節末に付された漢語抄訳(総訳)から成る。【出典】 小澤(1997)


組版ソフト LaTeX を使用して『元朝秘史』をタイプセットする試みが Oliver Corff 氏によってなされている。詳しくは,マニュアル「MnTTeX Tools for Typesetting the SECRET HISTORY OF THE MONGOLS」を参照。

アラビア文字 Arabic script


13 世紀から 15 世紀あたりにかけて,モンゴル人は,ユーラシアのかなりの部分を支配して各地域に大きな影響を与えた。中央アジアや西アジアといったアラビア文字を使用している地域では,そのモンゴル語をアラビア文字で書き留めることが行われた。現在知られているアラビア文字で記録されたモンゴル語資料には 2 種類あり,一つは,14 世紀から 15 世紀の中期モンゴル語の語彙集であり,もう 1 つは,アフガニスタンに分布しているモゴール族というモンゴル軍の末裔と思われる人たちが用いたモゴール語で書かれた資料である。【出典】 斎藤(2006)
中世の神学者・文献学者ザマフシャリー (al-Zamahshari, 467/1075 - 537/1144) の著作のひとつである『ムカッディマト・アル・アダブ(Muqaddimat al-adab, Muqaddamatu-l-adab)』は,アラビア語-ペルシア 2 言語辞典とアラブ語文法を含むが,後に辞典の部分にチャガタイ語訳やモンゴル語訳が付け加えられた 4 言語対訳辞典となった。写本は,アラブ・ペルシア・チュルク・モンゴル 4 言語が流麗なアラビア文字(ナスターリーク体,ナスフ体)で書かれ,チュルク語部分のみが朱書,その他は黒書されている。[拡大図] 現存する写本は 1492 年に成立したとされるが,原本は 14 世紀ごろにさかのぼると考えられている。この写本は 1926 年にブカラ市で発見された。【出典】 斎藤・管野(2005),斎藤(2008)
左図は,30ページほどのモゴール語の本 “Зирнигээс олдсон гар бичмэлийн эхээс” の一ページである。地の部分はペルシア語だが,ペルシア語でモゴール語が解説してある。始めの部分は,モゴール語とペルシア語の対訳単語集で,あとの方に,モゴール語の動詞の活用が示してある。【出典】 Үмэсао Тадао (2011)

チベット文字 Tibetan script


チベット文字は,チベット仏教が普及していた全ての地域で使用されていた。ラマ僧用にチベット文字で書かれたモンゴル語の雑誌があったことからも,その影響力は非常に強かったと考えられている。【出典】 荒井(2006)

満州文字 Manchu alphabet


満州文字表記のモンゴル語資料としては,『御製満珠蒙古漢字三合切音清文鑑』(1780 年の序)や,『三合便覧』(1780 年の序)など,満州文字によって表音が示されている対訳辞書(前者には,漢字による表音の付されている)の類や,『満蒙合壁清文鑑』(第 2 次,1743),『三合語録』(1829)など,満州文字でモンゴル語を表記したものがある。

『三合語録』は,清朝乾隆年間に編纂されたとされる満州語口語学習書『tanggū meyen(一百条)』のモンゴル語訳である。この『三合語録』のモンゴル語は,当時の書き言葉として一般に用いられていたモンゴル文字ではなく,満州文字で表記されたモンゴル語口語であることに大きな特徴がある。理由として,モンゴル語の翻訳(文章)と口語は同じでないことがあげられている。下図左は,道光十(1830)年の琉璃廠五雲堂初版本の表紙,右は本文 1 頁である。【出典】 栗林,斯欽巴図(2010)

ハングル Hangeul alphabet (한글)


拡大
ハングルで表記されたモンゴル語資料としては,李朝時代の司訳院の翻訳官のモンゴル語学習書として編纂された,『捷解蒙語』『蒙語類解』『蒙語老乞大』の,いわゆる「蒙学三書」が代表的な資料である。右図は『蒙語老乞大』。【出典】 Wikipekida 老乞大 | Nogeoldae

モンゴル文字の入出力


ユニコード

モンゴルと中国内モンゴルを中心とする研究者が,統一的な文字符合表の作成に着手し,1999 年 9 月に SC2/WG2 コペンハーゲン会合で最終的に承認され,翌年,ISO/IEC 10646 の 2000 年版に追加され,ユニコード第 3 版に収録された。この間の経緯は,确精扎布(2000)に詳述されている。制定された符合表(下記)には,モンゴル文字(U+1800..U+1842)のほかに,広義に蒙古系文字とよばれる,トド文字(U+1843..U+185C),シベ(錫伯)文字(U+185D..U+1872),満州文字(U+1873..U+1877),ガリック文字(U+1880..U+1897),さらに,複数の文字系で使用する文字類(U+1898..U+18A9)が含まれる。Microsoft Windows に含まれる Mongolian Baiti は,これら 5 種類の文字をカバーする。


制御記号

モンゴル文字符合表の特徴に,「自由選択記号 FVS (Free Variation Selector)」と,「母音分離記号 MVS (Mongolian Vowel Separator)」がある。これらの記号が導入された理由は,次のようなものである。モンゴル文字において,大部分のケースにおいてアラビア文字やヘブライ文字のように,前後に位置する文字の種類,単語の性などの情報に字形の規則を適用することで,語頭・語中・語末の字形を一意的に選択できる。しかしながら,例外的に,規則の適用だけでは一意的な字形選択が行えない場合がある。このような場合に,一意的な字形を選択する役割をもつのが <FVS1> ・ <FVS2> ・ <FVS3> である。<MVS> の役割は,語中の母音が変則的に独立形をとる場合に用いる。【出典】 三上(2002)

記号コードキーボード機能
<FVS1>U+180B:MONGOLIAN FREE VARIATION SELECTOR ONE
<FVS2>U+180C*MONGOLIAN FREE VARIATION SELECTOR TWO
<FVS3>U+180D半角/全角MONGOLIAN FREE VARIATION SELECTOR THREE
<MVS>U+180E=MONGOLIAN VOWEL SEPARATOR
<NNBSP>U+202F-NARROW NO-BREAK SPACE

モンゴル語のスクリーンキーボード

モンゴル語(Traditional Mongolian, PRC)用キーボードを設定すると,タスクバーにはモンゴル語を表す「MN」が表示される。モンゴル文字転写と英語キーボード配列はほぼ対応している。詳しい対応は ALMAS のモンゴル語キーボード を参照。スクリーンキーボードの設定と,特定の入力手段が存在しないガリック文字およびトド文字の入力方法については 多言語環境の設定 を参照。

モンゴル語入力例

Unicode フォントを用いる最近のエディターやワードプロセッサーでは,言語キーボードを切り替えることにより書字方向と対応するフォントを変更し,さらに,異なる書字方向の言語を混在した文章を作成することが可能である。縦書きの場合も,右図に示す Microsoft Word 2013 の文字列方向を指定する箇所から,右縦書き・左縦書きを選択することも可能である。Web 上でのモンゴル文字処理については,「世界の文字」 コラム:書字方向―縦書き・横書き の「コンピュータ処理と書字方向」を参照。
モンゴル文字の出力例と,転写および上記モンゴル語キーボードを用いた際の入力例を示す。


関連リンク


参考文献


[最終更新 2014/12/24]